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大陸に住む兄弟

2014年10月29日

さて、いきなりですが問題です。
僕は今どこの国を旅しているでしょう?
今いる国の人々の顔から当ててみてください。

中国?

それともモンゴル??

はたまた東南アジア??

分かったでしょうか。
ではここで正解発表です。
ここは中央アジア東部の国、キルギス共和国です。

これまでの写真を見て、
「へぇぇ、キルギス人って、日本人に似ているんだ。」
そう思った方も少なくないのではないでしょうか。
でもキルギスの人々の顔立ちが僕らと似ていることも知らなかったくらい
この国がいったいどんな国なのか知らない人も僕を含めて多いと思います。
それぐらい縁遠い国ですが、キルギスと日本には
案外似たような共通点がいくつかありました。

キルギスは国土のほとんどが3000m級の山々に囲まれた山岳国家で
主な産業はソ連時代に推進された綿花を中心とした農業と
遊牧民国家ならではの牧畜。

また、山岳国家ならではの鉱業も盛んで、
特に金はGDPの二割を占めるほど重要な産業になっています。
しかし、この国もタジキスタンと同じく、地下資源には恵まれていないため、
経済規模はウズベキスタンやカザフスタンに比べると劣ります。
地下資源に乏しい山岳国家。
産業構造は違えど、こんなところも日本に似ているではありませんか。

そこに暮らす人々は縮れの少ない光沢ある黒髪、
細長い一重の目と彫りの浅い顔立ち、低く大柄な体型で
これまでのどこよりも僕らに近いモンゴロイドの特徴が現れています。
肌の色が日本人よりも濃い人も多いですが、
これは、より寒さの厳しいこのあたりの雪面から反射する紫外線に
負けない肌を形成するために黄色化が進んでいると言われます。

それでいて、中央アジアで共通する
家で靴を脱ぐ、布団を敷いて寝る、お茶をよく飲むといった生活習慣までそっくりだから
田舎の民宿に泊まった日には、親戚の家に遊びに来たような倒錯感に襲われます。

日本人とキルギス人の顔立ちが似ていることについて、
嘘か誠か、キルギスには
「遥か昔、キルギス人と日本人は兄弟で、肉が好きな者はキルギス人となり、
魚が好きな者は東に渡って日本人となった。」
という言い伝えがあるそうです。
実は日本にも似たような話があって、
昔話で有名な浦島太郎の由来になったとされる山幸彦と海幸彦という
狩猟が得意な神様と漁の得意な神様にまつわる神話が残されています。

調べだすと、キルギスと日本の起源は同じだとする説は
他にもたくさん出てくるのですが、だんだんオカルトチックな話になっていくので
これ以上をここで紹介するのは割愛することにします。
いずれにせよ真偽はともあれ、互いの国に同じような伝説が
残っているという側面から見ても
キルギスと日本は思いがけない親近感に溢れているのです。

ところでキルギスの首都はカザフスタンに程近いビシュケクであり、
第二の都市は中央アジア最大の人口密集地フェルガナ盆地に位置するオシュですが、
それぞれ前者はロシア人、後者はウズベク人が多く
キルギス人の割合が相対的に低くなっています。
もちろん純粋なキルギス人も多く住んでいますが、田舎と比べると割合は低くなります。

中央アジアの国々の名前である○○スタンとは、○○人を意味するにも関わらず、
キルギススタン共和国の首都や第二の都市で、
キルギス人の割合が少ないのは何ともいえません。

だから、純粋なキルギスに出会いたければ出来るだけ田舎を訪ねるとよいでしょう。

そこでは、山間の拓けた盆地に伝統的な移動式住居のユルタがあり、
その軒先でクムスという馬乳の発酵酒を売るキルギス人に出会えます。
雄大な景色に囲まれた草原で、駿馬に跨った少年が僕に気付いて駆けてきます。
「サラマレク(こんにちは)」と握手を交わした少年の手は、
日頃から手綱を握りしめているせいか、並の大人よりも分厚くて固く、
見た目は子供でも、遊牧の民としては立派な大人のようです。

中央アジアというと日本からの足も少なく、
地理的にはヨーロッパや北米よりも近いにも関わらず、
精神的な距離感はかなり遠く感じる人も多いのかもしれません。
でも、こんな風にユーラシア大陸の真ん中には
僕らと同じ顔をした人々が暮らしているのです。

もしこれを読んでみて中央アジアに興味を持ったのならば
キルギスを足掛かりとして、この地域を訪れてみてはいかがでしょうか。
きっと遠い昔に袂を分かった肉好きの兄弟が、
細長い糸目をもっと細くして、熱烈な歓迎をしてくれるに違いありません。

  • プロフィール 元無印良品の店舗スタッフ

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