MUJIキャラバン
MUJIキャラバン隊が日本全国を一周しながら、それぞれの風土に根ざした「良い物」や「良い食」について取材します。
多様なくらしの営みの中から、これからの時代へのヒントを探し出し、お伝えしていきます。

香り高きハバネロ

2014年12月24日

わさび、からし、唐辛子、山椒、生姜など、
日本にも昔から親しまれてきている香辛料があります。

そんななか、海の向こうから渡ってきた香辛料に魅了された、
一人の男性がいました。

「僕にとって、ハバネロソースは名刺代わりです」

すがすがしい笑顔でそう話すのは、
兵庫県篠山市でターンムファームを営む近藤卓さん。

日本では珍しい、無農薬でハバネロを専門に育てるファーマーです。

ハバネロといえば、中南米が原産の
鷹の爪などの数倍の辛さを誇る、唐辛子の一種。

一体、どんな姿かたちをしているのかと、
恐る恐る、近藤さんの畑を案内いただくと、

そこにはイキイキと実るぷりっとした果実の姿がありました。

たとえていうならば、ピーマンやパプリカのような。
これがそこまでの辛さを醸し出すとは思いもしません。

「よかったらかじってみてください」

言われるがままに、
近藤さんが割ったハバネロの欠片をかじってみると…、

「ん?辛くない。むしろフルーティー」

それが初めの正直な感想です。
しかし、程なくして、じわりじわりと訪れる辛さ。

「キター!!やっぱり辛い!」

この感覚こそが、近藤さんを虜にした証でした。

初めて近藤さんがハバネロに出会ったのは、2002年のこと。
当時、住んでいた石垣島の友人から渡された一つの実が、それでした。

「その色と形。香水のような芳香。
フルーティーなやさしい甘みの後に広がる、とてつもない辛さ。
完全にハバネロに魅了されましたね」

以来、その時に譲り受けたハバネロから種採りをし、
株を大切に少しずつ増やしてきたといいます。

そして2004年、広い土地を求めて、48株のハバネロの苗と共に、
奥さんの実家のある丹波篠山へ移住されました。

ただ、そのまま食べるには辛すぎるハバネロ。
そこで近藤さんが手掛けたのが、ハバネロソースでした。

「子供がいるんですが、小さいうちは料理を辛くできませんから。
自分が食べる料理にだけ使えるようなソースが欲しかった」

そう話す近藤さんは、子供の頃から、料理にタバスコをかけていたそうですが、
酸っぱさをなんとかしたいと思っていたそう。

そして、好みのソースを追求すること1年。

無農薬・無化学肥料栽培のマンゴーやトマト、
自家製のニンニクやタマネギを混ぜたソースが完成したのです。

初めは売るつもりなどなかったそうですが、
瓶が好きで、デザインも好きな近藤さんが手掛けると、
自ずとパッケージも洗練されていきます。

こうして完成したハバネロソースは、
「Mellow Habanero(メローハバネロ)」と名付けられ、
評判が評判を呼び、広がっていきました。

英語が話せるようになりたいと、
写真共有サイトに投稿した英語の栽培日記は、海外にまで反響を呼ぶように。

アメリカやオーストラリア、デンマークといった国々へも出荷され、
スウェーデンでは女性ヘビメタバンドのオフィシャルグッズにも採用されているほどです。

世界広しといえど、ハバネロの栽培から、収穫、加工、出荷までを
一貫して行っている生産者は、希少な存在なようなのです。

近藤さんが自身の人生すべてがそこに入っている、
名刺のようなものと語るハバネロソースは、
国内外を問わず、確かに近藤さんと人々をつないでいました。

今では1800株を育てるまでに至った、ターンムファームのハバネロ畑。

それが近藤さんは家族で手掛けられる最大の規模と話します。
驚いたのがソースを作るミキサーも鍋も、すべて家庭用サイズ。
その理由も、至ってシンプルでした。

「すべて手づくりでやりたいんです。
教わるのではなく自分で切り開いていく、DIYスピリットを大切にしていますね」

自らを"ハバネロマン"と名乗り、
ハバネロソースのおいしさを広める近藤さん。

素材の味を引き立ててくれる心地よい辛さは、
病みつきになる味わいです。

欧米化する日本の食卓において、
ハバネロソースが欠かせなくなる日も近いかもしれません。

【お知らせ】

2012年に開始した「MUJIキャラバン〜日本全国の良いくらしを探す旅〜」
の連載ブログは、今回をもちまして一旦、終了となります。

地域で出会ったみなさま、情報を提供してくださったみなさま、
そしてこのブログを読んでくださったみなさま、
どうもありがとうございました。

日本全国のその地に根ざしたものづくりや食づくり、活動を応援する活動は、
引き続き、新しいかたちで続けていきますので、どうぞご期待ください。

  • プロフィール MUJIキャラバン隊
    長谷川浩史・梨紗
    世界一周の旅をした経験をもつ夫婦が、今度は日本一周の旅に出ました。
    www.cool-boom.jp
    kurashisa.co.jp

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