MUJIキャラバン

瀬戸本業窯

2014年02月05日

800年の歴史と伝統を誇る「瀬戸焼」。

瀬戸焼が"せともの"として陶磁器の代名詞となるなど、
幅広く全国各地に広がっていったのは、
名古屋という大都市に近いことと、純白で良質な陶土が採れたことからだそう。

瀬戸焼はその長い歴史のなかで、1つの産地としては珍しく、
あらゆるジャンルのものを作ってきました。

鎌倉時代には、日本で初めて釉薬を使った焼き物を作り、
耐水性のある実用としての器の可能性を広げました。

また、日本の水回りタイルの第1号も瀬戸で生まれ、
国内のトイレタリー環境の衛生に一役買ったり、
私たちの生活に欠かせない電気を、各家庭に供給するのに必要不可欠な
碍子(がいし)を生み出したのも瀬戸焼でした。

1800年以降に瀬戸に磁器の技術が入ってくると、磁器生産が本格化。
旧来からの瀬戸の陶器を「本業焼」、
磁器を「新製焼」と呼んで区別するようになります。

「うちが本業を守っているのは、
民芸運動の柳さんとの出会いがあったからだと思っています」

この地で250年以上続く「瀬戸本業窯」の8代目、
水野雄介さんに工房をご案内いただきました。

時代の潮流を捉えた新製焼を手掛ける窯元が増えるなか、
瀬戸本業窯はその名の通り、瀬戸本来の日用雑器づくりを生業にしてきました。

今も昔もその生産スタイルは変わらず、
土づくりも釉薬づくりも自分たちで行っています。

釉薬には、アカマツの灰をベースに使うのですが、
右上の写真の量の木材でどんぶり2杯分のマツ灰しかとれず、
年間約400杯のマツ灰(およそ1トン)が必要になるというから驚きます。

灰釉(マツ灰)でつくられる黄瀬戸のお皿

「本業焼の美徳は、最低限の手数と材料で、量を生み出すこと」
と雄介さんが話す通り、仕事は分業制で、
作り手は日々繰り返しの修業のなかで、
いいものをスピーディーに作れるようになるといいます。

そうした積み重ねのなかで、徐々に余分なものが削ぎ落され、
本業焼の代表的な「馬の目」(写真左下)や、「麦藁手」(写真右下)といった
シンプルなデザインの器が生まれていったそう。

「反復で早く描けるこれらの柄は、
恐らくデザイナーには生み出せないデザインでしょう」
と、雄介さん。

こうした本業焼のスタイルに目を留めたのが、
先に述べた民芸運動の創始者・柳宗悦氏です。

(左:バーナード・リーチ、中:濱田庄司、右:6代目水野半次郎)

雄介さんの祖父で、6代目・水野半次郎さんの時代に、
柳氏と出会った瀬戸本業窯は、その後も民芸の思想を大切に
瀬戸本来の本業焼を生み出し続けてきたのです。

また柳氏は、瀬戸本業窯のある洞町(ほらまち)の街並みにも感激したといいます。

町を歩くと、この地で窯業が盛んに行われていた歴史を物語るように、
窯を焼く際に使用した窯道具の廃材を積み上げて築かれた「窯垣」を目にします。

この光景を見た柳氏は、
「ここでは一体どんな仕事が行われているんだ…」
と感嘆の声を上げたんだそう。

しかし、地元の人には身近な光景であり、
住民は特に気にすることなく、窯垣を取り崩す人もいました。

そこで立ち上がったのが、雄介さんの父親で7代目・水野半次郎さんでした。
今から20年ほど前に、7代目・半次郎さんが地域住民に呼びかけ、
洞町の景観を守る活動を行ったのです。

「うちの窯は民芸運動があったから活性化したというより、
もともとやってきたことが評価されたということが後から分かりました」

7代目・半次郎さんは、家業に入る前に他の産地に修業に行き、
いくつかの窯元を見て回ったそうなのですが、
勉強しにいったつもりが、逆に瀬戸のすごさを思い知ることになったんだそう。

ちなみに、瀬戸本業窯では、代々当主に「半次郎」の名が引き継がれています。
戸籍そのものから変えるといい、これはとても珍しいことだといいます。

250年以上のあいだ、「水野半次郎」によって守られてきた瀬戸本業窯。

「この先もずっと瀬戸本業窯を続けていくために、
仕事のやり方は変えずに守っていきたいと思います」

最後に8代目・半次郎後継の雄介さんがそう話してくれました。

当主の名を統一することで、個性を出さずに、
元来の本業焼を守り続けているその姿にこそ、
8代にわたって続いている秘訣が隠されているように感じました。

そして、雄介さんの言葉からも、瀬戸本業窯が
未来においても変わらずに続いていくことを容易に想像させてくれます。

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  • プロフィール MUJIキャラバン隊
    長谷川浩史・梨紗
    世界一周の旅をした経験をもつ夫婦が、今度は日本一周の旅に出ました。
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