MUJIキャラバン

人の循環する町

2013年01月18日

徳島県北東部に位置する神山町(かみやまちょう)。
この町が近年「すごいことになっている!」という噂を聞きつけ、やってきました。

徳島市内から車で約40分の山間にある人口6350人の町は、
"遍路ころがし"といわれる、四国霊場八十八ヶ所最大の難所がある場所だそう。
その町で昨年度、初めて転入者が転出者を上回ったというのです。

一体、神山町で何が起こっているのでしょうか?

その理由を語るのは、NPO法人グリーンバレーの理事長、
大南信也(おおみなみしんや)さんです。

「そもそものキッカケはPTA活動で子どもの学校に行った時に見かけた、
"アリス"という一体の青い目の人形だったんですよ」

以前、カリフォルニアで日系人が差別されていたことを受け、
1927年、米国から日米友好のために全国の学校に人形が送られました。
しかし、後の太平洋戦争で多くの人形が処分されます。
大南さんが地元の小学校で見かけたアリスは、
戦後まで残った約300体のうちの一つだったのです。

「この人形の送り主を探したら、何か起こるかもしれないって思ってね。
1991年に"アリスの里帰り"を計画したんです」

アリスにはパスポートが付いていて、そこには出身地が書いてあったそう。
市長に手紙を書いて問い合わせをし、なんと64年の時を越えて、
アリスの送り主のご遺族と対面を果たしたといいます。

そして、この時の成功体験を共有できていた仲間が、
今のグリーンバレーの中心メンバーとなっています。

"アリスの里帰り"を機に、大南さんらは「神山町国際交流協会」を立ち上げ、
毎年キャンプを開催したりと、町民を巻き込んで国際交流を図ってきましたが、
現在の活動を行う転機となったのが、
県の計画で神山町に国際文化村を作るという「とくしま国際文化村構想」でした。

「その時、神山町から県に対して、中身の提案を行ったんです。
施設ができても内容がともなわなければ使われなくなる」

その時の案が、現在も継続して行われている、
"環境"に軸を置いた「アドプト・プログラム」と、
"芸術"に軸を置いた「アーティスト・イン・レジデンス」でした。

「アドプト・プログラム」とは、民間団体が道路や河川の清掃活動を行うこと。
現在、20団体が参加し、清掃活動を行っているそうです。

「町に訪れた時に、汚い場所だったらもう二度と人は来ないと思うんです。
五感で感じられる町を目指したいと思って」

一方、「アーティスト・イン・レジデンス」は
毎年8月末から約2ヶ月間、国内外のアーティスト3人を神山町内に招いて、
芸術作品の制作・展示を行うもので、今年14年目を終えました。

本年度参加した、ドイツで活動するアーティスト出月秀明(いでつきひであき)さんは、

「ずっと温めていたアイデアを神山の大自然の中で形にできました。
この場所が個人と社会の関係や自分の時間を考えてもらう場になれば…」

と語ります。

出月さんが手掛けたのは森の中にひっそりと佇む
「隠された図書館」。

神山町住民の希望者に、人生で3回、
卒業、結婚、退職の時に読んでいた本を収めてもらい、
記憶を共有、もしくは思い出してもらおうという作品です。
図書館を開けることができるのも住民のみなんだとか。

大南さんは"アートによる町づくり"についてこう話します。

「手法は2つあって、
一つは評価の定まった作家の作品を集めて観光客に見に来てもらうこと。
もう一つは、作家に作品制作のために滞在してもらうこと。
神山町が行っている後者は、作家が住民との触れ合いを通して、
神山の町民によるお遍路で培った"おもてなし"を自然に受けることで、
神山のファンになっていくんです」

実際、「アーティスト・イン・レジデンス」で過去に神山町を訪れた人が
後に移住してくるようになったそう。

そこで、ウェブサイトを一新し、神山町での暮らしを伝える
「神山で暮らす」というコンテンツを載せると、一気に注目を浴びるように。

その後、神山町から委託されて移住交流支援センターを運営するようになり、
「ワーク・イン・レジデンス」という新たな仕組みを取り入れます。

「田舎には職がないからといって、若い人が集まらない。
だったら、仕事を持ってきてもらおうってね」

それは、自分たちの町に必要な職種の人を逆指名で募集する、という驚きの策でした。
これまでに、パン屋やWEBデザイナー等が移住してきているといいます。

さらに、2年前から「サテライトオフィス」の事業展開を開始し、
すでに9社が神山町にオフィスを構えています。

(写真上:Sansan(株)・サテライトオフィス
写真下:(株)ソノリテ・サテライトオフィス)

「町の活性化のためにモノを作るのではなくて、
"人"が集まる場所を作るんです。
入ってきた人は必ず何かを残していってくれますから」

直近では、神山町に住む映像作家・長岡マイル氏と、5人の外国人作家が
里山や鎮守の森の現在、林業や様々な森を基点とする仕事などをテーマに
国内5つの場所を訪問し、「森と暮らしの関係」を撮影する、
「森と共に生きる暮らし方」探訪キャラバン
(愛・地球博成果継承発展助成事業)を企画・実施中。

来る2月10日(日)、11日(月・祝)に
シンポジウムでの映像上映を予定しているそうです。

神山町に訪れる前に聞いていた、「神山がすごいことになっている!」というのは
今に始まったことではなく、
大南さんら、グリーンバレーが1991年の"アリスの里帰り"以降、
ずっと継続して行ってきた様々な取り組みの結果だったのです。

大南さんはアリスという人形との出会いと、
アリスの送り主との交流を通して、
「今やっていることすべてに意味があるはず」
ということを学んだそう。

*できない理由より、できる方法を!
*とにかく始めろ!(Just Do It!)

という活動指針を置いて、これからの時代を先読みしながら
"人"による循環型の町づくりを実践しているグリーンバレーは、
地域の課題に正面から向き合い、その解決のために今日も突き進んでいます。

  • プロフィール MUJIキャラバン隊
    長谷川浩史・梨紗
    世界一周の旅をした経験をもつ夫婦が、今度は日本一周の旅に出ました。
    www.cool-boom.jp
    kurashisa.co.jp

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