食品ロスについて
食べ残しを腐らせてしまったり、食べ忘れて封を切らないまま期限を過ぎてしまったり もったいないと思いながら食べ物を捨ててしまった経験は、多くの人にあるでしょう。東京都23区の家庭から1日に捨てられる食べ物の量は、アジアの50万人以上の人が1日に食べる食料に相当するとか。今回は、まだ食べられるのに捨てられている食べ物、食品ロスについて考えてみましょう。
製造過程で発生する規格外品、小売店での売れ残りや期限切れ、飲食店や家庭での食べ残し・食材の余り食品
ロスは、さまざまな場面で発生しています。日本では年間500万トン~800万トンにも上り、これを日本人一人当たりに換算すると、毎日おにぎり約1~2個分を捨てていることになるのだとか。食料自給率が40%を切った日本で、多くの食べ物を輸入に頼りながらこんなに大量の食べ物が捨てられているのは、健康な社会の姿とは言えません。
ただもったいないだけでなく、食品ロスはゴミを出すことから、環境問題にもかかわってきます。それを資源としてメタン発酵させて分解し、エネルギーを生み出す取組みもありますが(くらし中心 no.12 発酵のちから 11ページ「発酵でエネルギー」(PDF:8.5MB))、そうした動きはまだごくわずか。いずれにせよ、私たちひとり一人が食品ロスを減らしていこうという意識をもつことが必要でしょう。
3分の1ルールの限界
消費者の元に届かないまま捨てられてしまう食品ロスもあります。その量は年間約400万トン。原因として挙げられるのが「3分の1ルール」と呼ばれる長年の商習慣です。賞味期限までの期間を[メーカー・卸][小売り][消費者]という流通過程で3等分し、それぞれの期間内に各段階を通過しなかった「在庫商品」は、その時点で排除するというもの。「新鮮な商品をより多く並べ、欠品させない」ことを目的としたものですが、その結果、賞味期限までに十分余裕のある食品も、大量に捨てられることになっていたのです。こんな無理はさすがに限界があり、23年の秋からはメーカーと卸、小売りが協力して、「3分の1ルール」を見直す取組みやムダをなくすための仕組みづくりが始まっているとか。しかし、こうした過剰なまでの「サービス」が生まれた背景には、私たち消費者の行き過ぎた「鮮度志向」があることも忘れてはならないでしょう。
買いすぎない、余らせない
食品ロスの約半数は、家庭から発生しています。家庭の生ごみの中には手つかずの食品が2割もあり、さらにそのうちの4分の1は賞味期限前に捨てられているという報告も。「安いから」というだけで家庭のストックを確認しないまま買い込んだり、冷蔵庫に入れたことで安心して忘れてしまったりというのは、よくある話です。
家庭での食品ロスを減らすには、「買いすぎない」ことと「使いきる」こと。使いきるためには「保存の知恵」が必要と説くのは、食文化研究家の魚柄仁之助さんです。例えば◇魚は内臓と頭を取り除き、塩をあてるか酢で締める◇白菜やニンニクなどは冷蔵庫に入れず太陽光にさらして紙に包む◇切ったら干すか塩を振る、といった賞味期限を延長させるための工夫が必要(「冷蔵庫で食品を腐らせない日本人」大和書房)。冷蔵庫の普及していなかった時代には誰もがあたりまえとして身に着けていた食品保存の知恵を、私たちはすっかり忘れてしまったのかもしれません。
福井県の「食べきり運動」
こうした中、福井県では、食品ロスを減らすために「おいしいふくい食べきり運動」という取組みをしています。「◇家庭やホテル・レストランなどで、おいしい福井の食材を使っておいしい料理を作り◇作られた料理を食べきって◇残ってしまった料理は、家庭では新たな食材としてアレンジ料理に活用し、外食時には持ち帰って家庭で食べきろう!」という運動です。家庭用には、ムダなく食べきるためのレシピを紹介。飲食・小売店へは◇ハーフサイズや小盛りなど食べ残しが出ない工夫をしたメニューの設定◇持ち帰りができる料理メニューの設定◇お客から希望があった場合に持ち帰り用のパックなどを提供、といったことを呼びかけています。こうした取組みが広がっていけば、食品ロスを減らせるだけでなく、食べ物を命あるものとして「いただく」という食事への感謝も深まっていくでしょう。
消費者から生活者へ
食品を買うとき、すぐに食べるとわかっている場合は、わざと古い日付のものを選ぶ、という人がいます。その理由は、「そうしないと、その食品はきっと捨てられてしまうから」。なかなかできることではありませんが、食品ロスを考えるとき、私たちに必要なことは、こうした姿勢なのかもしれません。
新鮮なものやきれいに揃ったものを我先に選び取ろうとするのではなく、「ここにあるもの」に感謝し、それを回していこうという感覚。そして、とびきり新鮮でなくても規格外でも、それを上手に生かしておいしく食べるための知恵を持つこと。「いただきます」というからには、食べ物の命を引き受けるくらいの気持ちが必要なのかもしれません。私たち自身が「消費者」から「生活者」へと意識を変えていくことで、食品ロスの問題も解決に向かっていくのではないでしょうか。
みなさんは、食品ロスについて、どう思われますか?