人と食をつなぐ─三浦半島の取り組み
神奈川県の南東部、東京から電車で1時間半ほど行ったところに三浦半島はあります。海あり山ありの風光明媚なこの土地で、地元の農家や漁師が、地域に移り住んできたアプリ開発会社の人と力を合わせ、"三浦半島のうまい"を発信する取り組みを始めました。人と食をつなぐ新しい試み、「三浦半島食彩ネットワーク」の活動をご紹介します。
農家と漁師の集い
三浦半島には、おいしい野菜を作る農家がたくさんあります。ピチピチの魚を獲る漁師もたくさんいます。相模湾と東京湾に囲まれた丘陵地帯のこの半島は、食の恵みの宝庫なのです。
今から10年ほど前のこと、三浦半島(三浦市・横須賀市・鎌倉市・逗子市・葉山町)の農家と漁師が集まって「三浦半島農漁業体験直販ネットワーク」という団体を作りました。50事業者ほどが参加したこの団体では、神奈川県の補助を受け、勉強会を開いたり、先進地域の直売所を視察したり、三浦半島に点在する野菜の直売所マップを作ったりしたそうです。ところが、活動したのは補助金が出た3年間だけで、その後は規模が縮小し、最後は休眠状態になりました。
当時会長だった高梨雅人さん(現三浦半島食彩ネットワーク会長)は「せっかく有力な農家や漁師が集まったのに、このままではもったいない」と思い、会の事務局を引き受けてくれる人を探していました。そこに現れたのが、東京の喧噪を逃れ、温暖な三浦半島の地に移り住んできたアプリ開発会社を営む桑村治良さんでした。
ITとの出会い
東京で音楽雑誌の編集をやっていた桑村さんが、三浦半島にやって来たのは2010年のこと。締め切りに追われる多忙な生活に嫌気がさし、のんびりした三浦の地に引っ越してきたそうです。ここで桑村さんはプログラムの勉強をし、「オン・ザ・ハンモック」というアプリ開発会社を立ち上げました。
自分が身につけたITスキルを活かし、「地域のために役立つことをやりたい」と思った桑村さんは、パートナーであるグラフィックデザイナー、高橋宰知子(現在・桑村宰知子)さんと三浦半島の野菜直売所を紹介するアプリを制作したいと思い立ちます。そして三浦半島に点在する直売所の情報を集めるために市役所に行きました。そこで紹介されたのが上述した団体の会長の高梨雅人さんでした。
高梨さんは「直売所の名簿を渡すから、かわりに団体の事務局を引き受けてよ(笑)」と桑村さんにもちかけます。こうして休眠中の団体は「オン・ザ・ハンモック」という企業の力を得て、名称を「三浦半島食彩ネットワーク」と変えて活動を開始しました。
農、漁、食の多彩な顔ぶれ
2013年、県の補助もなく、有志だけで「三浦半島食彩ネットワーク」は船出しました。事務局を担う桑村さんと高橋さんは、三浦野菜の情報提供アプリを作ったときのリストを元に、地元の農家や漁師さんに声がけをしました。その結果、若い生産者を中心に、多くの人がネットワークに参加。新しいメンバーには飲食の経営者や加工業者、さらにクッキングコーディネイターやフォトグラファーも加わって、いっそう多彩な顔ぶれになりました。
三浦には東京の一流レストランが野菜を取り寄せるほどの実力ある農家があります。大手のマグロ問屋や水産業者もいます。そんな食のエキスパートが集まり、IT企業が中に入ることで「何か面白いことができるんじゃないか」という機運が高まってきました。
今現在、スタートから2年が経ち、ネットワークの活動は多方面に広がっています。例えば、各地で開かれる物販のイベントに出店したり、農業体験や漁業体験を含めたツアーを旅行会社と実施したり、三浦半島で採れた食材で「100人バーベキュー」を開催したり、農家や漁師の話が聞けるユニークな「食彩お料理教室」を開いたり
。「三浦半島には個性の強い生産者がたくさんいます。その"個のパワー"を活かした特色あるサービスをこれからも広げていきたい」と桑村さんは話します。
農家と漁師とIT企業という異色の組み合わせで立ちあがった団体は、今や多方面から注目される存在となり、わざわざ遠くから行政視察が来るほどになりました。今後は直売所の集積という地域の特色を活かした「直売所オンラインショップ」の開店も企画するなど活動は多岐にわたっています。
しかし、根底にあるコンセプトはひとつ。"三浦半島のうまい"を広めていくこと。「三浦に来てもらい、三浦を見てもらい、三浦を食べてもらいたい」と、ご自身でも農家を営む高梨さんは語ります。
おいしい野菜を作る人がいて、おいしい魚を獲る人がいて、それを料理する人がいる。「食」を中心に人と人が結びつき、その活動がまた遠くから人を呼び寄せる。
異業種が集まっているからこその発想、発信力を強みとする「三浦半島食彩ネットワーク」の取り組みは、これからの生産者の新しいあり方を示すものになるかもしれません。
※参考資料:
三浦半島食彩ネットワーク
おいしいを探そう! 三浦のおやさい