研究テーマ

自分でつくる ─可能性を広げる工房─

渋谷FabCafeでつくられた作品

自分でなにかをつくるという行為は、とても楽しいものです。自分の中にある創造性を呼び起して、手を動かしてみる。そこには、出来上がったものを買うことでは得られない何かがあるのを発見できるでしょう。そのことで、ものの見方や暮らし方が変わってくるような気もします。

つくることをサポートする高度な機械(デジタル工作機械)

ものをつくろうとする時に必要なのが道具です。たとえば洋服をつくる時にミシンがあれば、つくるスピードと精度は格段に上がります。木やアクリル板を扱おうとすると、それなりの工具や場所も必要になるでしょう。
今回ご紹介するFAB LABは、デジタル工作機械という高度な機械を持つ、ものづくりの工房です。その活動は、共感した人たちによって草の根運動のように世界的に広がり、現在では世界で30カ国、70箇所の工房がつくられています。高度な機械を持っているだけでなく、すべての拠点がネットワークされて情報が共有されていることも、この活動の大きな特徴です。
発端は、アメリカMIT(マサチューセッツ工科大学)ニール・ガーシェンフェルド教授の授業でした。講座のタイトルは、「(ほぼ)なんでもつくる方法」。デジタル工作機械(※注1)の仕組みを知るための講座だとか。そこで学んだ人たちは、それぞれが自分の地元の地域に工房をつくり、最新の機械を導入してその使い方も指導していきました。「ものづくり」の喜びを、もっと多くの人の手に戻していきたいという願いから生まれた、自然発生的な活動です。ものをつくる人にとっては、まさに願ってもない場所といえるでしょう。そこで用意されているデジタル工作機械とは、3次元プリンターとレーザーカッターです。
3次元プリンターは、樹脂などを溶かして、コンピューターの3次元データをもとにその樹脂を積み上げていくもの。つまり、金型などを使わずに、複雑な樹脂の立体をつくることができるのです。大量生産には向いていませんが、少量であれば、歯車や接合部分の立体を簡単につくることができます。つくれるものの大きさは機械によって異なりますが、最近では大きいロボットのような機械もつくられています。また、樹脂の代わりに金属を溶かしてカタチをつくるものもありますので金属の歯車のような部品もつくることが可能です。
もうひとつはレーザーカッター。これは本当に万能です。コンピューターで作成したデータで、木、紙、布、皮、アクリル、金属などを一気に裁断してくれます。それだけでなく、深さもコントロールできるため、文字などを書いたりすることもできるのです。
もちろんこうした機械を使いこなすには指導者が必要ですが、FABLABでは使い方をサポートしてくれる人やつくりたいものを一緒に考えてくれる人もいるので、安心して相談できます。

自分でつくるという喜び

ひとたびこうした経験をすると、ものづくりの夢は広がります。今までのような大量生産品を買うという行為から、自由になれるのです。欲しいもの、つくりたいものを、自分で考えることができるのです。
一方、ものをつくる時に欲しいのは、情報と事例です。つくるためのお手本と言ってもいいでしょう。FAB LABは世界中でネットワークされていて、それぞれの作品とつくり方、作品のデータなどがネット上に紹介されていきます。そして、わからないことはお互いに情報交換もできるのです。
「20世紀には、ひとつの地域にひとつの図書館をつくりました。それは読み書きというリテラシーを身につけた時代。21世紀は、すべての人がものづくりのリテラシーを身につける時代です」─日本のFAB LABの代表、田中浩也さんは、そんなふうに語っています。FAB LABを日本でも広めていこうと考えた田中さんは、私財を投じて鎌倉にその拠点をつくりました。そしてその活動が広がり、今や日本でも数カ所のFAB LABが出現しようとしています。

自分でものをつくる時代。みなさんは、どんなふうにお考えですか。ご意見、ご感想をお寄せください。

※注1
デジタル工作機械とは工場などでは30年ほど前から使用されている物でCAM(Computer Aided Manufacutuaring)、NC(Numerical Control)と呼ばれるもの、コンピュータ上のデジタルデータを機械に送り込みそのまま裁断できる装置、裁断のスピードや溝の深さなど様々な情報を制御できる機械

無印良品 くらしの良品研究所では、「かたがみ」をテーマに、自分でものをつくるという展覧会を企画しています。2012年10月26日(金)から有楽町のATELIER MUJIにおいて[くらし中心~「かたがみ」から始まるpart1・家具のかたがみ展]を行います。ぜひお越しください。

研究テーマ
生活雑貨

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