クラウドファンディング ─企業の時代から個人の時代へ─
「クラウドファンディング」という言葉をご存知でしょうか? 群衆(crowd)と資金調達(funding)を組み合わせた造語で、自分の夢を実現したい人たちが、その活動のための資金を不特定多数の人から集める仕組みです。ノーベル賞を受賞した京都大学iPS細胞研究所長の山中伸弥教授が、3月の京都マラソンで完走宣言をして研究資金を募ったのも、まさにそれでした。
資金を調達しながら、活動を広く伝える。
もともと海外で始まったクラウドファンディングですが、日本でもこうした仕組みが増えつつあります。海外では「Kickstarter」「Indiegogo」、日本では「READYFOR?」「CAMPFIRE」などが知られていますが、最近ではファンドレイジングというファンディングを促進するためのプラットフォームも。何かにチャレンジすることで自分や他人の活動を応援する資金を集める「JustGiving」は、山中教授の京都マラソン完走で、広く知られるようになりました。
日本初のクラウドファンディングサービスとして知られるのは、「READYFOR?(レディーフォー)」。ここでは、音楽・映画・アート・テクノロジーなどのクリエイティブな活動はもちろん、夢を持つすべての実行者がアイディアをサイト上でプレゼンテーションして、多くの人から支援金を集めることができます。発案者はそのプロジェクトを実行するために必要な資金を明示し、そのプロジェクトの内容や実現への想いをサイト上で表現。実現した際には、出資してくれた人へどんなものを提供するかも明示します。リターンが義務づけられているわけではないので「寄付」というかたちをとることもできますし、状況を詳細に報告する「レポートを送る」というようなことでも構いません。そして、そのプロジェクトが公開されて、ある一定の期間内で目標額に達しない場合は、プロジェクトは失敗ということで、お金は出資者へ返還されます。そして成功したプロジェクトだけがサイト上に残り、その後の進捗も報告されていくのです。出資者たちは、単にお金を払っただけでなく、その後のプロジェクトの行方を見守り、時には強い応援者となります。出資者が自分の周囲の人たちに告知してくれることで、社会への広がりをつくっていくことができるのです。つまり、お金を集めるだけでなく、プロジェクトを広く世の中に伝えるという機能も持っているのです。
社会的な価値とのつながり
こうしたファンディングの仕組みは、銀行からお金を借りたり、ベンチャーキャピタルからお金を投資してもらったりするのとは様相が異なります。多くの場合、単に「自分がやりたい」というだけでなく、それが「社会のためにどう役に立つのか」ということが大事です。見ず知らずの人がお金を出してくれるのですから、熱意や情熱だけでなく、そこには社会的な価値が必要とされるのです。またプロジェクトの成功(資金調達達成)に向かって、どのくらいの人の共感を集められるか、という社会的反応を同時に見ることができるのも大事な機能のひとつ。そうした意味では、リターンを求める投資とも、また純粋な寄付とも違うと言えそうです。そこには、発案者との関係性を大切にしてそのプロジェクトの発展を見守り応援していく、という絆のようなものが感じられます。
企業の時代から個人の時代へ
資金力がなくても、個人や小さな組織でも事業を行えるというのも大きな特長です。そもそも、企業は社会の課題を解決するために生まれたものですが、経済成長の中で肥大化し、営利を追求しなければならない宿命を持っています。社会的な課題を解決したいと思っていても、売り上げや利益を確保しなければならないということが障害になる場合もあるでしょう。しかし個人は、もっと身軽です。社会の課題に忠実に、そして自分の意志に素直になって、ビジネスを展開できる可能性を持っています。その背景には、コンピューターやインターネットの発展により、世界中の人たちとネットワークすることで、工場などの生産現場を持たずにものをつくることが可能になってきたということもあるでしょう。大発明や大発見、画期的な商品や新しいビジネスモデルは企業の中から生まれるのでなく、志のある個人から生まれ時代なのかもしれません。時代の主役は企業から個人へと移っていこうとしているようにも思えます。
クラウドファンディングという新しい仕組み、みなさんはどんな風に思われますか? そして、どのように活用していきたいと思われますか?