秋田駅の木造バスターミナル
昨年、秋田駅の駅前に杉でつくったバスターミナルが生まれました。以前のそれは鉄骨造りの表面に秋田杉を貼った建物でしたが、今度のものは完全な木造。デザインも一新され、秋田杉を使った美しいバスターミナルとして話題を集めています。
杉は戦後の植林政策によって全国各地で植えられましたが、それ以前から、秋田は日本三大美林のひとつに数えられる有名な杉の産地です。樹齢100年近くまで時間をかけてゆっくり育つその杉は、高い強度と柔軟性をもち、天井や腰板など、家の材として使われてきました。また家具や日用品にも使われ、曲げワッパと呼ばれる有名な弁当箱は、秋田杉ならではの特性を活かしたものです。
このバスターミナルができるきっかけとなったのは、「日本全国スギダラケ倶楽部(以下:スギダラ)」というグループの存在でした。スギダラは、地元の杉をもっと見直していこうと、各地でシンポジウムやデザインコンペなどを行っている団体です。核になっているのは、デザイナーや都市計画家などクリエーティブな人たち。具体的な形にすることに長けた人たちです。
この秋田でも、秋田公立美術大学の菅原香織氏を核に「北のスギダラ(スギダラの秋田支部)」の地道な活動が進められていました。そして、その活動の中で交流のあったバス会社「秋田中央交通」からターミナル建て替えの相談があり、南雲勝志さんと小野寺康さんがデザイン、設計を手掛けることになったのです。
杉の産地として名高い秋田のような街であっても、駅を降りると、コンクリートのビルに囲まれています。よく「日本の駅前は殺風景だ」と言われるのは、全国どこへ行っても同じような景色から来る感想かもしれません。駅は街への玄関口です。もっとその土地らしい風景があっていいはずですし、特にこの秋田のように木の産地であれば、木造の建物があると心なごむでしょう。
バスを待っている地元の人に訊いてみると、「明るくなった。気持ちがいい。夜でも怖くない。バスを待つ時間が楽しくなった」と評判は上々。身近に使ってきた木の肌触りは人間にとって心地よいものですし、木を使うことは日本の文化を見直すことにもつながるでしょう。
他国に目を向けてみると、例えば北欧などの木の産地では、大型の木造近代建築が建ち並びます。かたや日本では、大型の建築物を木造にするには、建築基準法によるさまざまな制限があるのも確かです。しかし最近では、木も耐火構造になるように、その基準が見直されつつあると聞きます。国土の7割を森林で囲まれた日本。かつては地域の大事な産業であった日本の森林資源を、もっと活用していくべきではないでしょうか。
「木」を使って、公共の建物や駅前の風景をつくり替えていく━━今回の取組みは、地元の人や秋田を訪れる人に、秋田杉の美しさを再発見させることになるでしょう。こうした活動が各地で起こり、その土地らしい駅前の風景をつくることにつながっていけば、日本の街はもっと魅力的になれるような気がします。
みなさんの声をお聞かせください。
秋田駅西口バスターミナル
建主:秋田中央交通株式会社
基本設計・デザイン:ナグモデザイン事務所
実施設計:小野寺康都市設計事務所・間建築研究所設計共同企業体
[関連サイト] 月間杉 WEB版 95号