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空に落ちているもの

綿あめ、ヒツジ、クジラ、怪獣、アニメのキャラクターなどにも見える空の雲。子どもの頃は飽きもせずに、よく眺めたものです。大人になった今、みなさんはどうされていますか。たまには空を見上げていますか。気をつけて眺めていると、ビルの直線に切り取られた狭い空でも、ときには見とれるほどの美しい光景が生じています。今回は普段見落としているかもしれない、空の落としものについてです。

空の落としもの:白虹

先日、交差点で信号待ちをしていると、高校生ぐらいの女の子が顔を寄せ合って空を眺めていました。スマホを掲げて何かを撮ろうとしている。つられて見上げると、明るい空にぼんやりと虹のような輪が架かっていました。調べてみると、どうやら「白虹(しろにじ)」というものらしい。白虹の正体は、太陽にかかる暈(かさ)の一種。上空にうっすらと広がった雲によって太陽の光が屈折されて起きる現象です。虹が太陽の反対側にできるのに対し、白虹は太陽を取り囲む弧のような形で空に架かります。ビルの谷間に垣間見えた小さな虹。女の子たちが空を見上げていなければ、見落としていたかもしれません。

空の落としもの:彩雲

晴れた日の日中、太陽のそばにある白い雲がパステル調の輝きを帯びることがあります。このカラフルな雲は「彩雲(さいうん)」と呼ばれ、虹のような光の"屈折"ではなく、"回折"という現象によって生じます。色の区別は虹ほどハッキリせず、水彩でぼかしたにじみ絵のよう。古来中国では「瑞雲」や「慶雲」などと呼ばれ、良いことが起きる"吉兆"として尊ばれました。仏教の阿弥陀如来が極楽浄土から来迎するときに乗ってくる五色の雲も、この彩雲です。さほど珍しい現象ではなく、光と雲の条件さえ揃えば比較的よく見られるもの。晴れた日、日の光を浴びて輝いている雲があったら、近くの空を眺めてみてください。思わぬ吉兆に出会えるかもしれません。

空の落としもの:天使の梯子

天を覆う雲の隙間から幾条もの光がこぼれ落ち、地上との間に神々しい光の筋を描くことがあります。「天使の梯子」や「ヤコブの梯子」と呼ばれる現象です。名前の由来はもちろん聖書。旧約聖書の創世記に、ヤコブがイザクから祝福を受けてイスラエルの地に旅したとき、天に通じる階段が現れて、天使が行き来する夢を見たとあります。それでヤコブはここが天の門の地と悟り、神に祈ってイスラエルの地を作ったとか。天使の梯子は、雨上がりで細かな水滴が宙に舞っているときや、靄(もや)がかかっているときによく出現します。逆に空気が澄み切っているときにはあまり見られない現象です。

空の落としもの:飛行機雲

上空の高いところを飛んでいるジェット機、そのエンジンの排気でできるのが「飛行機雲」。まっ青な空に音もなくスーッと伸びていく白線を見るのは気持ちいいものです。この飛行機雲、日の光の加減によっては非常に美しく見えることがあります。とくに夕日を真横から浴びたときには、まっ赤に燃えさかる火の玉のように見え、UFOや隕石の落下などと見まがうことがあるそうです。飛行機雲が長く尾を引き、なかなか消えないときは、上空の湿度が高くなっている証拠。その後は天気が下り坂になることが多いと言われています。

空の落としもの:いろいろな雲

毎日あたりまえのように空に浮かぶ雲。昔の人はその雲にさまざまな名前を与えていました。写真家、高橋健司氏の著書「空の名前」にはそんな雲の名前が紹介されています。たとえば高々と晴れた空に刷毛で掃いたような「筋雲(すじぐも)」「羽根雲(はねぐも)」「ほそまい雲」。ちぎれた綿をちりばめたような「鰯雲(いわしぐも)」「鱗雲(うろこぐも)」「斑雲(まだらぐも)」。どんより空に垂れ込める「こごり雲」「朧雲(おぼろぐも)」「片乱雲(へんらんうん)」。真夏の空に白くそびえる「積み雲」「立ち雲」「入道雲」など。雲という一言にこんなにもたくさんの呼び名があったとは……。昔の人の心には、子どもの時間が流れていたのでしょうか。

空の落としもの:都会の空

「夏より秋にかけての夜、美しさいふばかり無き雲を見ることあり。都会の人多くは心づかぬなるべし。」とは、幸田露伴の「雲のいろいろ」に出てくる一節です。どうやら露伴の生きた時代にあっても、都会に住む人は空を見上げるゆとりがなかったようです。
都会の空は一見単調そうで、つまらなそうに見えます。でも、世界一の夕日が見られるギリシャのサントリーニ島の空も、日本の空も、空に変わりがあるわけではありません。ビルの林立する都会でも、甍(いらか)を連ねる住宅地でも、その気になって見ていれば、ため息が出るほどの美しい光景に出会うことができます。それが見えないのは、ただ私たちが見ていないだけのこと。「足元を見つめろ」とは現実を見つめろという意味ですが、ときには現実を離れ、子どもの頃のようにボーッと空を見つめることも大切ではないでしょうか。
今日、ふと意味もなく、空を見上げてみませんか。探していた大切なものが見つかるかもしれませんよ。

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