研究テーマ

社会貢献を知ろう!「良品計画社員と学ぶ寄付先団体の活動」第35回

募金券 寄付先団体の皆さんの活動を、良品計画の社員との対談を通してお知らせします。第35回は、日本で失われつつある棚田の支援を通して、都市と農村の交流を活性化し、循環型社会につなげることをめざす棚田ネットワークさんにお話をお聞きしました。

日本の棚田を知って欲しい

どこか懐かしさを感じさせる、棚田のある風景。美しさに魅了されたことがある人も多いのではないでしょうか。そんな日本の棚田も、現在では40%以上が耕作放棄地になってしまっています。棚田では上質で美味しいお米ができるほか、生態系の豊かさを育む環境面での機能、洪水や地滑りなどを起こりにくくさせる防災面での機能など、利点がたくさんあるそうです。棚田を守るための活動を知って、失われつつある棚田の魅力について考えてみませんか。

プロフィール

棚田ネットワーク

日本にある棚田の荒廃に危機感を持った都市住民が集まり、1995年に結成された棚田ネットワーク。一人でも多くの人に棚田の良さを知ってもらえるよう、棚田地域での農作業体験、援農活動や、都市地域での棚田の多面的機能に対する理解促進に取り組んできました。手伝って欲しい人(棚田農家)と手伝いたい人(都市住民)をつないで棚田を支援するさまざまな活動を通じて、棚田と棚田のある地域の価値を伝え、循環型社会をつくるための後押しをしています。

棚田ネットワークについて詳しくはこちら

  • 高野光世さん

    NPO法人棚田ネットワーク
    常務理事

    長野県生まれ、愛知県育ち。東京芸術大学音楽学部中退。印刷会社など勤務の後、フリーで校正業をしながらNGO活動に関わる。人と自然が共生する「棚田のある風景」の美しさに惹かれ、95年に棚田支援市民ネットワーク(現・NPO法人棚田ネットワーク)の結成を呼びかけ、99年春から12年春まで専従。全国棚田(千枚田)連絡協議会幹事。

  • 前美和子

    良品計画
    食品部 企画開発担当 兼 調味・飲料担当課長

    2000年に良品計画入社。衣服雑貨部の子供担当や紳士担当などを経て、食品部に配属。品質管理業務を経て、現在は調味・飲料とFoundMUJIも含む企画開発担当を兼務。FoundMUJIでは「蛇(じゃ)紋岩(もんがん)米(まい)」というお米の販売も企画し、兵庫県但馬での田植えにも参加。お米はCafe&MealMUJIのメニューでもご提供中。

  • 雜賀俊一郎

    良品計画
    業務改革部 海外施設設計課

    学生の頃より無印良品でアルバイトを始め、1999年に良品計画へ本社員として入社。無印良品のイオン秦野や町田での店舗勤務を経て、2002年より国内の出店業務を担当。2009年より国内施設設計課、2012年より現職。主に、海外出店に関わる業務として什器・備品、資材調達や取引先開拓などを担当。

見たことがないのに、懐かしい

岐阜県恵那市の坂折(さかおり)棚田

前:都市で生活していると、棚田のある風景に出会う機会はなかなかないものです。もしかしたら、見たことがない人もいるのではないかと。私自身は、無印良品で扱うお米の企画にも携わっているので、農家さんのところへ行く途中にちょっと目にすることがあります。棚田を見ると、なんだか懐かしい気持ちになりますよね。

高野さん:そうですね。棚田のある風景は美しくて、人々の心に残るものだと思います。日本人の原風景なのではないでしょうか。棚田は地滑り地帯にできていることが多く、毎年耕作することで災害の防止にもなっています。平地の田んぼで今では希少となった生き物が、まだまだたくさんいたり・・・。経済の効率性という面で考えると正反対にある棚田ですが、美しいばかりでなく、カウントできない価値がたくさんあります。

前:人間だけではなくて、ほかの生き物にとってもありがたい存在なのですね。

高野さん:はい。なぜかというと、棚田の周りには森があるからなんです。森は水を育んでいます。平地の田んぼだと、稲刈りが終わればカラカラに乾きますよね。あるいは、稲刈りの前から乾かして、大きな機械が入っても沈まないようにします。棚田の場合、周りに溜池や渓流があり、一年中、近くに水があるので生き物が行き来できます。絶滅危惧種に近い生き物がたくさんいるといわれているのはそのためです。ですから最近では、生物多様性に対する価値も見直されてきています。

雜賀:メディアで棚田が取り上げられる機会が増えたのでしょうか。私の周りにも、棚田フリークの人がいます(笑)。

高野さん:一つのものが滅びようとすると、それを守ろうとする人が出てくる。「時代」なんだなと思います。

40%以上の棚田が失われてしまっている

雜賀:過疎化や農村の高齢化で、通常の水田も減少していくなか、多くの棚田が耕作放棄地になってしまっていると聞きますが。

高野さん:はい、40%以上が耕作放棄地になっていると思われます。農業に従事する人たちが高齢化したことに加えて、経済効率を第一の物差しとする時代の流れが、棚田を衰退させてきました。実際、棚田は一枚ずつが小さくて大型の機械が入らないですし、効率の面では優等生ではありません。農家さんは生活がかかっていますから、収益性を優先してしまいますよね。

雜賀:確かに。私も以前、普通の田んぼで田植えをやったことがありますが、日が暮れる頃には腰が折れそうになりました・・・(笑)。棚田だとアップダウンもありますし、農作業がなおさら大変になると思います。それでも、時代の流れとともに、棚田を守っていきたいという人たちもいるのですよね。

高野さん:最近は、若い人たちの間でも、棚田の保全に取り組む人たちが増えました。長い物差しで見ると、田んぼや畑を、農産物を作る場としての限定的な捉え方や、短期的な経済効率だけで考えるべきではないのが分かります。たとえ維持するのに多くの時間や労力、お金がかかったとしても、棚田の価値を高めていくことこそが、実は、将来的にみて最も「豊か」なことではないかと。今では、本当に、いろんな方がいろんなところで「経済性だけじゃない」ということに気づいてきています。良品計画さんも効率だけじゃない商品をつくっていらっしゃいますよね。

前:そうですね、効率性は必要ですが、それ以外の部分も意識しています。その商品がどうして、どうやってつくられたのかを考えて、私たち自身が共感できたものをお客さまにお届けしたいと思っているからです。そのコンセプトをどれだけ守って商品開発できるかが、私たちが一番やらないといけないことだと。それを投げ打ってまでも、効率重視になることはしません。

雜賀:高野さんご自身が棚田の衰退に問題意識を持たれたそもそものきっかけは何ですか?

高野さん:1995年に全国棚田連絡協議会という組織が発足し、第1回全国棚田サミットが開催されました。それに私も参加したのが始まりです。私もやはり、まずは棚田の美しさに、とても惹かれました。それでその年の終わりに、サミットに参加した人たちに呼びかけて棚田ネットワークを結成しました。自分たちの手で何かできることをしようと。

前:市民団体としては、初ですか?

高野さん:そうです。当時から農家さんや行政の人たちは棚田の状況に危機感を持っていましたが、農家さんはけっこうあきらめてしまっているようなところもありました。自分の目が黒いうちは頑張るけど、子どもは継がないし・・・と。それに対して、市民の立場で「手伝いたい人」と「手伝って欲しい人」をつなぐ、応援団としてやれることを探そうと思い立ったんです。

思いをつなぐ、「棚田の応援団」

前:現在、棚田ネットワークさんはどのような活動をされているのでしょうか。

高野さん:私たちは、棚田の応援団なんです。野球やサッカーでも、応援団、サポーターってものすごく大事ですよね。自分は選手にはなれないけれども、スタンドから大声で応援するとか。そして、そういう盛り上がった雰囲気があると、選手をめざす人も増えるでしょう?棚田ネットワークは、棚田の応援団として、棚田農家を手伝いたい都市住民と、手伝って欲しい棚田農家をつないで棚田を支援しているんです。

前:「応援団」っていいですね!具体的にはどのように棚田にかかわっていらっしゃるのでしょう。

高野さん:都市住民が地域の人たちと交流しつつ、田植えや草刈りなどを体験しながら、棚田を保全していこうとする棚田のオーナー制度や、子どもさんたちへの田植え体験、棚田への理解を深める活動などを行っています。また、企業さんとのおつき合いも、少しずつですが出てきています。地域の方に企業さんがお手伝いしたいことをご相談すると、一度切りではなくて長くおつき合いしたいとおっしゃいますね。とりわけ、山村では、地元は切り捨てられてきた地域だという意識を持っていたりもしますから、何度も足を運ぶと、すごく嬉しいみたいです。

雜賀:なるほど。棚田を守りたくても、守る人がいないとやっていけない。どうやって人と人をつないでいくかなんですね。

高野さん:はい、まさに。あとは、例えば、棚田のお米を食べるだけでも応援になりますよ。実際に、棚田ネットワークの法人会員の方が、棚田米が買えるネットショップを始めました。ほとんど流通していない棚田のお米を、みなさんに食べてもらえればいいなと。スーパーで売られている通常のお米と比べると多少高くはなりますが、美味しく食べることでも、棚田地域とつながることができますよね。

前:確かにそうですね。直接棚田に行って何かをすることだけが応援ではないですよね。