煤(すす)がかかったように見える醤油蔵
兵庫県養父市にある小さな醤油蔵。 建物の外観はやや黒ずみ、煤(すす)がかかったようにも見えます。この黒ずみの正体はというと、ここに住み着いている酵母たち。良い醤油屋には良い酵母たちが住み付き、建物の黒ずみが良い醤油屋の証だそう。建物の中に入ると、ほわっと芳しい発酵独特の香りがします。
ここで造られる醤油は手間ひまのかかる日本の伝統、天然醸造。
天然醸造とは、醸造に一年以上要する昔ながらの製法で、長い間、蔵に住み着いている酵母たちを、四季の温度の変化に委ねる製法のこと。(現在では、もろみに温度や培養酵母を加えて醤油を早く作る製法をとり、醤油の製造期間は6ヶ月が当たり前とされているそう。)ゆっくりと発酵・熟成させる醤油は、やさしく奥深い味で料理の素材を一層引き立てます。Café & Meal MUJI で使用している「機(とき)有るべし」は、2年以上もの月日をかけてつくられています。
醤油づくりの材料は、大豆・小麦・塩のみ。「機有るべし」では国産有機の大豆と小麦を使用しています。 大豆の自給率は約6%、小麦の自給率は約9%とどちらも大変希少なもの。その中でも有機大豆、有機小麦はほんのわずかな生産量です。
「機(とき)有るべし」 名前の由来 「すべての命は機(とき)なくしてはありえない」という「有機」の語源と、醸造という行為そのものが幾多の微生物のいのちの活動の生産物をいただくことだと心に刻んでほしい。そんな思いから「機有るべし」と名付けられたそうです。
黄色がかった醤油麹
醤油の作り方
醤油の作り方は、(1)麹(こうじ)をつくる (2)発酵・熟成させる (3)搾る といたってシンプル。
しかし、余計な工程がない分ごまかしのきかないもので、酵母たちがしっかり働ける環境づくりをしなければなりません。ここにかける手間ひま、ゆっくりと進む発酵・熟成を見守る長い期間と根気と忍耐力が必要。
麹(こうじ)をつくる
麹室では、大豆を蒸し、小麦を炒って割り、麹菌を混ぜ一日置きます。2日目には麹が熱をもってくるので、熱くなりすぎてしまわないよう、かきまぜて冷まします。3日目、開始から48時間で醤油麹の完成です。完成した醤油麹は初日の白っぽい色から黄色がかった色に変わります。
搾る 圧搾室では、出来上がった諸味(もろみ)を搾り、加熱し、色と香り、味を調えます。この搾りも、ただぎゅっと搾るだけではなく、まず布に諸味をのせたら折り畳んで包み、板状にします。さらに、その上に布を重ねて諸味をのせ、折り畳んで包み、板状にします。それを繰り返し何十枚と重ねられた重みで時間をかけて自然に搾られ、出来あがったものが生醤油です。 職人さんが無駄な動きのない手つきで、次々と諸味をきれいに包み込んでいきます。搾りたての醤油を少し味見させてもらいました。 キレの良い塩味のあとに来る、深みのある旨味。「おいしい!」でも、この生醤油が瓶詰めにされて出荷されるわけではありません。 これだけおいしいのだから加熱するのはもったいない、と思いましたが加熱しないと酵母が生きたままの状態になり、出荷後も発酵が進んでしまい味が変わってしまうのです。火入れをすると旨味は減りますが、香りの良い醤油になるのだそう。おいしいままの醤油を保つためには欠かせない工程です。
一枚一枚丁寧に諸味を包んでいきます
重みで少しずつ搾られていきます
手作り醤油を仕込みました。 一年後が楽しみ!
手間ひま
醤油は日本食の要と言われながら、原料の大豆と小麦はほとんどを海外に依存しています。
製法を天然醸造(一年以上を要する)にこだわり、原料も国産ということだけではなく、国産有機(3年以上無農薬、無化学肥料で土壌作りに取り組み、その畑で収穫された作物)で生産者の顔が見える原料を使い、生産者との繋がりがあってこそ安全な食べ物が作ることができる。大徳醤油ではそのように考え、手間と時間をかけて醤油作りをされています。 昔は醤油も家庭で作られるのが当たり前でしたが、今では買うのが当たり前。「私たちの食べ物が、工場でしか作れないものであってはならない」と、家庭にものづくりの技を取り戻してほしいと願って手作り醤油講座も開いていらっしゃいます。今回の訪問時に、私達も手作り醤油キットを使って醤油の仕込みをしてきました。出来上がるまでには一年以上かかりますが、どんな醤油ができあがるか今からとても楽しみです。
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