野生動物を待つ時間
ネイチャーカメラマンの僕にとって、外は一番多くの時間を過ごす仕事場でもあり、何より楽しい遊びのフィールドだ。
動物の撮影では、大地がスタジオ、太陽の光が照明であり、残念ながら僕は動物と話せないから待ち合わせやポーズの指定も出来ない。だから、光と動物の動きを観察し続けてシャッターチャンスを待つ。ひたすら外で待つ。辛抱強く探して待つことが楽しいと思えたら、ネイチャーカメラマンの素養あり。
さて、フォークランド諸島でペンギンの撮影をしていた時のこと。数千羽が生活をするコロニーのど真ん中に、研究者用の小屋が建っており、僕は許可を得てそこを拠点に撮影をしていた。
撮影初日の夜。見渡す限りペンギンだらけだった大地も、夜は闇に包まれ何も見えない。少し寂しくなった僕は、ペンギンは何をしてるのかな? と、懐中電灯で外を照らしてみた。すると、ガサッ!と音を立てて僕の方に振り返った、数千羽×2の光る目。次の瞬間、ドサドサドサッ! と光めがけて一斉に駆け寄ってくるではないか! あのもちもちした短い股下でも、その速度はさすがの野生動物だ。すぐさま懐中電灯を消し、驚きと恐怖で隠れるように寝袋の中に逃げ込んだ。
そんな辺り一面ペンギンだらけの環境にいながらも、実は満足する写真を撮れる機会はとても少ない。それが自然を相手にするということだ。だからこそ、冒頭にも書いたが、根気強く何日もチャンスを待つことができるかどうかが、この仕事の要だ。僕自身、仕事だからとか写真が好きだからという理由だけではなく、飽きずに何日もシャッターチャンスを待ち続けられるのには、理由がある。
実はファインダーを覗いて目で被写体を追いながらも、全く別のことを考えていることがよくあるのだ。一人で過ごす静かな自然の中は、考え事や妄想をするには絶好の場所で、「外」にいながら自分の「内」と向き合うことができる貴重な時間なのだ。ありのまま、あるがままの自然の中で考え事をすると、正直な想いが泉のように心から湧き出て、水が浸透するようにすーっと染み渡る。
そんな時間の心地良さを知ってしまった僕は、飽きもせず今日も自然の中でシャッターチャンスを待ち続けることができるのだ。
僕は今、スコットランドの草原でこのコラムを書いている。草をむしゃむしゃ食べるたくさんの牛に囲まれながら。