あこがれの山あそび
その日はいつになく早起きで、四時とか五時とか、二月の上旬だから外はまだ真っ暗です。寒い日の早起きは苦手だけど、この日はバッチリ。前の日の夜からドキドキしていたのです。
群馬県の嬬恋村に来て初めて知ったのが、スキーは山を移動するための道具だったということ。スキーはスキー場で使うためのものだと思っていたけど、昔むかし、険しい山に暮らす人々が日常生活を送るために開発した画期的な道具だったのです。そんな話を聞いたら、厳しい寒さの中にそびえ立つ山々と、その間を颯爽とくぐり抜けていく山の達人たちの姿が目に浮かぶよう。もう、憧れの気持ちでいっぱいになって、やってみたくなるに決まってるじゃないですか。
その日は、念願叶ってスキーを使って山にくり出す日。お天気も抜群によい、絶好の山日和です。山に登るのは大好きで、しかもその日はスキーを履いているんです。私、スキーを履いて山を登ってるんだ! そう思うと楽しくて楽しくたまりません。私、山の達人に近づけているかな、なんて思っちゃっています。冬の山は人が少なくて、静かにすいすいと歩いていると、まるで山と一体化しているかのような気分になれます。
「ここからあそこに見える屋根のところまで降りるんだよ」
と言われて、ドキドキが止まりません。このドキドキは、楽しみ、というよりはこわい......。どうしよう、大丈夫かな、と思いながらおそるおそる降りてみるけど、全然うまくいきません。実は私、スキーは学校のスキー教室でしかやったことがない初心者レベルなのです。前日の夜にイメージトレーニングしていた、あの、颯爽と滑り降りる感じとはだいぶ違う滑りで、四十分かけてようやく下まで降りることができました。
ふう、安心しました。調子に乗ってごめんなさい。でも、山の達人の姿を想像したら、とても魅力的で、つい、私もやってみたくなってしまったのです。
次の日から、嬬恋村でのスキー特訓の日々が始まりました。山でのスキーよりも、スキー場のゲレンデでのスキーが優先です。あの日から、冬が二回過ぎました。そろそろスキーが上手になっているはず。もう一度、あのコースを滑ってみようかなぁ。