みんなの外あそび | No.172
夏の上高地へ

山好きへの第一歩

間宮寧子/ライター・エディター

熱しにくく冷めやすい性格で、趣味を持っている人を羨ましく思う。でもこの夏、まだ趣味とは言えないけれど、新たな興味には出会うことができた。

水遊びが好きで、夏の旅となれば泳げる場所ばかり選んできた。中学生の頃、夏休みに2週間キャンプ生活をしたことがある。湖で遊び、疲れたら昼寝をし、夜は湖岸のテント水音を聞きながら眠る日々。水の中の浮遊感も、濡れた身体を燦々の太陽で温めてもらうのも、水からあがったあと気怠さの中で眠るのも最高だった。今住んでいる街は川のほど近く。河原には水遊びができる人工川があって、暑い季節は足が向く。30年近く前のキャンプで私は水の気持ちよさを知り、水を追って生活してきた気がする。

しかし数ヶ月前、夏の旅行計画のヒントを探すためネットサーフィンをしていて、なぜだか上高地がヒットした。上高地にも川はあるけれど、水遊びをするような場所ではない。思い返せば中学校の林間学校以来、山歩きというものをしたことがない私。そんな自分の心に上高地が引っかかった時点で、土地に呼ばれたような気がして行くことにした。

上高地にはマイカー規制があって、東京から行くと沢渡という場所で車を停め、そこからバスかタクシーに乗り換える。乗ったタクシーの運転手さんが上高地のあれこれを話してくれた。釣りが禁じられているから上高地の岩魚は人が近づいても逃げないとか、底が見えるほどに透き通っているから川水がエメラルドグリーンに見えるとか。無為自然な場所に来たことを確信し、心踊る。タクシーから降りて空気を吸ったら、甘いと感じるほどにおいしかった。

二泊三日の中日は、3歳の息子に負担のなさそうなコースを散策することに。上高地のシンボルである河童橋と明神池の往復約6キロは、目を奪う景色の連続。特に空の青さが水面に映る湿原を目の前にしたら、しばらく動けなくなった。沢の水を水筒のフタで飲んで息子にも勧めた時に、目をまん丸くしていたのが可笑しかった。いつも遊んでいる川の水は「飲んじゃだめ」と教えられてきたからか。鳥が好きな13歳の娘は、よく響くさえずりに感動していた。きりりとした山の空気、滔々と流れる澄んだ川、霧に霞んだ神々しい池。魅力がここそこに転がっていて、本当に楽しい旅になった。

旅から日常に戻り、仕事で話を聞いた俳優さんがゴルフにハマっていると話していた。印象的だったのが「健康であればずっと続けられる趣味を見つけたから、歳を重ねるのが楽しみになった」という発言。それを聞き、山道で、私よりずっと年上の人たちが軽い足取りで歩く姿をたくさん見かけたのを思い出した。トレッキングシューズが埃をかぶらないうちに、また山に行こう。わたしも数十年後、涼しい顔でひょいひょいと山道を歩いていたい。

まみややすこ|1981年東京都生まれ。『MilK MAGAZINE JAPON』『&Premium』『BRUTUS』『anan』などの雑誌で、主にファッションやインタビュー記事を担当。家からほど近い多摩川のほか、砧公園で遊ぶのも好き。

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