みんなの外あそび | No.174
自分とその近くの誰かを思う暮らし

外に、そわそわする毎日

ほんまかおる/編集ライター

泳ぎにいこう!と話した5分後には、川や海へダイブ。山と森なんてすぐそこだから、ピクニックは近くの高台まで自転車でGO。コーヒーを飲みに行こう、と出向く先は畦道や浜辺、それに親しい高齢の友のお宅。それが、5年前に越してきたここ、ムラカミ(新潟県村上市)暮らしだ。

ここでは、あそびというより、外しごとの方がずっと日常だ。そうして玄関先や庭先には、収穫した野菜がごろん。「やったりとったり(物々交換)」の有り難いご近所づきあいが常。

できるときのお返しは、おぼつかないながら農作業のお手伝い。その道50年超のひろこさんは、地域特有のかぶりもの「ボシ」姿で、いつもだいたい田畑にいる。支度をして出向けば、たいてい何かしらの作業がある。70代の元気なひろこさんはテニス仲間でもあるのだけど、テニスの間も口にするのは、田んぼの水の心配や草刈りのこと。わが集落にある田んぼの水の管理は、80代のばばちゃんだ。

村上は鮭の町でもあって、集落の近くを流れる大川での川釣りは、男衆の格好の趣味......を越えた私(し)ごとだ。11月になると川パトロールがはじまる。そわそわが過ぎて早朝から一日ずっと川に?と呆れるほど。鮭を求める姿は、この地域の秋冬の風物詩だ。名人のただおさんは、釣った鮭に手際よく塩を擦り込み、冬の間海からの寒風で発酵させた塩引鮭を、さらに燻製させて珍味に仕上げる。わが家の5歳児も好物。

私も年に数回の川しごと(川掃除、草刈りなど)には、オットにくっついてお手伝い(にぎやかし)に参加する。果たして、地域のこの伝統漁は後世に残せるのか。オットのような普通に会社勤めしている地元の男たちの肩にかかっている。

山菜のおすそ分けをもらった時に「アクで殺して食べるんだよ」と聞かされた時は驚いた。天然の樹木を燃やした灰から抽出した「アク(灰汁)」は、山菜のえぐみをとるのに用いる。新潟県の多くの地域では、端午の節句に笹団子やちまきを食べる。一方、わが山北(村上市山北地区)では「アク笹巻き」といって、アクに浸したもち米を、5~6月に山で採った笹で巻いて、茹でていただく。

黄金色に輝いたもち米はもっちり。風味は、ほんのり苦甘い?白いちまきとまるで異なる。山北の宝のようなおやつは、家族みんなの大好物。1年前にひろこさんと採った笹は、教わったとおり、洗って重ねて冷凍済み。まだ一人ではとてもできなくて一緒に作ることしかできないけれど。

知らない町に越してきて思うのは、ご近所づきあいや、人と関わることの有り難さと尊さに尽きる。常に誰かにおすそ分けするばばちゃんじじちゃんがいるから、私はここに生きている。だから思う。お返しは、みんなのことを気にかけながら、ここでしっかり生きていくことなんだろうなと。

ほんまかおる|1977年熊本県生まれ。結婚を機に新潟県最北の村上市山北(さんぽく)地区へ移住。編集者・ライターとして地域の媒体やまちづくりに関わりながら、NPO法人「おたすけさんぽく」に所属し、町の困りごと解決に向き合うこと、学童保育所で子どもと遊ぶことが日常に。雑誌『PAPERSKY』による自転車旅「Tour de Nippon」に携わる自転車愛好家......だったはずが、自転車に乗る機会減。その代わり稲刈り機の操作と灰からアク汁をとるやりかたを覚えるのが今年の目標。

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