感動を共にすること
同じ風景に感動して、いっしょに食事をして、たき火を囲んで語り合う。
シンプルな体験を共有するキャンプは、人と人との距離を縮めてくれます。
そんな仲間とのキャンプの魅力を知っているキャンプのベテランが、
キャンプ初心者をおもてなし。
秋の南乗鞍の大自然を満喫しながら、仲間の絆がぐっと深まりました。
キャンプには、いろいろなスタイルがあります。一人で楽しむソロキャンプもあれば、二人でのんびりとすごすキャンプもあれば、大勢で盛り上がるキャンプもある。友達と行くのか、恋人と行くのか、家族と行くのか。一緒に行く人によっても、その楽しみ方はさまざまです。どんなスタイルも、それぞれのよさや醍醐味があるものですが、私が好きなのは断然、友人数名とワイワイ楽しむタイプ。だから、ついつい大きなテントやタープを買い揃え、車も大人数が乗れるものを手に入れてしまいました。そうして、キャンプグッズを揃え、参加者はイスとシュラフくらい持ってきてくればいいという、題して「馬場田プレゼンツ」のキャンプが、いつの間にか恒例となりました。道具も用意し、車で迎えに行き、あげくの果てにはおいしい朝食まで振る舞ってしまう。そんなふうに、至れり尽くせりのホスト役を買って出てしまうのは、キャンプの中に「もてなし」という新しい楽しさを見出してしまったからかもしれません。自分が好きなキャンプというフィールドで、友達が心から楽しみ、喜んでいる姿を見ると単純にうれしい。ただそれだけで、キャンプを企画してしまうのです。
キャンプ場で働き出してからは、なかなか開催することができず、「もてなし」の楽しさが恋しくなっていた頃、東京の同僚が南乗鞍に遊びに来ることになりました。アウトドアやキャンプもあまりしたことがないと聞き、腕が鳴ります。キャンプや南乗鞍の魅力を感じて帰ってほしい。シンプルにそう思いました。
どうやって、もてなそうかと考えに考えた結果、たどり着いたのは「一緒に美しいものを見て、一緒においしいものを食べ、一緒に楽しい体験をする」というごくごくシンプルな方法。「共有」することが一番の「もてなし」になるのでは、と考えたのです。ぽかぽかとした太陽の下にイスを並べて、たわいもない話をしながら眠ってしまいそうになったり、あたたかいコーヒーを飲みながら満点の星空を眺めたり。これといって特別なことをするわけでなく、目の前にある外の気持ちよさを一緒に体感するだけ。あまりのゆるさに気まずくなってしまうのでは、と不安がよぎりながらも、彼女の気さくな性格にも助けられ、いつの間にか打ち解けていました。何をするでもなく、ただ同じ景色に包まれるひととき。私たちは同僚という関係を忘れて、いろいろな話をしました。つい、いつもより饒舌になってしまったのも、大自然の計らいかもしれません。
そして、あらためて感じたのは「すごいね」「きれいだね」「たのしいね」という感動や喜びを「共有」することが人と人の距離を縮め、楽しさを倍増させるということ。外というごくごくシンプルな状況の中では、「共有」するということが最大のアトラクションです。共有する人が増えれば、その楽しさは幾通りにも姿を変え、一人では決して味わうことができなかったキャンプの面白さにたどり着くことができます。また、キャンプという非日常の空間で友人や恋人と「暮らし」を共にし、そこで感動を分かち合う数日間は、相手のことが見えてくる特別な時間。ちょっとした癖や面白い一面など、普段は見過ごしてしまうような姿も、外という空間では丸見えです。きっと、相手にも自分のいろいろな部分が見えてしまっているのでしょうが、そんなこともキャンプの面白さの一つなのです。
私がキャンプで仲間たちを「もてなし」たくなるのは、私自身が友人たちとの距離をもう一歩縮めるための「きっかけ」をつくりたくなってしまうからなのかもしれません。そうしてキャンプのことを考えていたら、ひさびさに「馬場田プレゼンツ」を開催したくなってきました。いつもの河原で、いつもの仲間と。