雪山を歩く
冬に山に行くといったら、スキーやスノーボードを思い浮かべます。
が、今回の外あそびは、雪山が舞台ではありますが、
スキーでもスノボでもありません。
たっぷり雪が積もったゲレンデから森に入って、雪山トレッキングです。
ゲレンデの喧噪から離れた雪山には、
静かで幻想的な世界が広がっていました。
手にはストック、でも足元はスキー板ではなく、スノーシュー。この雪の嬬恋での目的は、スキーではなく雪山トレッキングだ。ゴンドラから遠く浅間山を眺めながら終点に降り立ち、スキーやスノーボードの客が颯爽とすべっていく嬬恋のゲレンデを、その流れに逆らって一歩一歩登るところから、雪山歩きは始まる。
見晴らしの良いゲレンデから森へ入る。ポップなBGMやシャーッとスキー板が雪の上をすべる音が急激に遠ざかり、森の奥へ、奥へと足を進める。木と木の間をすり抜けるように歩いていくこのときは、まだスノーシューの重さもさほど感じない。
森の中に入ると、そこは童話やファンタジー映画に出てくるような世界そのものだった。すっぽりと雪をかぶった木々は愛嬌たっぷりなオバケのよう。木の枝にぶら下がった氷柱はキラキラと輝く天然のオーナメント。子ども心がよみがえってファンタジックな空想にふけりながら、一歩、また一歩と森の中をゆっくりと進む。
緩やかな登りを歩き、今まで見たことのない森の静謐な白い景色に感動しつつ、そこはやはりトレッキング。次第に息が切れてきて、視線が足元に落ちてくる。
ギシ、ギシ、ギシ。
たっぷり積もった雪を踏みしめながら歩いていると、あることに気づいた。スノーシューの足跡がほんのり青かったのだ。深く積もった雪の内側からぼぉっとほのかに光るような透明な青。疲れて下を向いていたことを忘れ、雪の表情を探してさらに、一歩一歩を踏みしめて進む。陽の光があたるところでは、雪はキラキラと虹色に輝いている! 白一色に見えた世界は、多彩な色の光に満ちていたことに気づきハッとする。
そして、歩いているうちにもうひとつ気になったのが、この表情豊かな雪がいったいどれくらい積もっているのかということ。だいぶん山の中を進んだように思うけれど、まわりの木々は低くなり、頭上には空が広がっている。夏山を歩いている時ならば、はるか頭上に木々の梢が広がり、青い空はその隙間に遠く光るもの。山肌の上にたっぷり積もった雪が、雪山を歩く人をぐんと上に押し上げているのか! 地面から数メートル上、 梢の間を歩いているというわけだ。こうして手が届くところでつららをさげている枝も、太陽の光が気持ちよく注ぐ広い空も、雪が積もった冬でないと観ることができない景色なのかと思いながら、目の前に現れた絶壁と言っても過言でない急な登りに愕然とする。いくら雪が地表から数メートル押し上げてくれているとはいえ、これをよじ登らないと、もっと上には行けない。意を決して、スノーシューのエッジをガッと雪に立てて、登り始めた。
が、結局、体力不足で頂上までたどり着けず帰路へ。雪の上を歩くのは、土の上を歩くよりもずっと体力がいるし、普段運動をしない身には正直なところかなりキツイ。でも、山を下りてきたとたんもうすでに「あの景色をもう一回見たいなぁ」と、次の雪山歩きに思いを馳せてしまっている。表情豊かで幻想的な雪景色と、積もった雪の上から見る広々した絶景は、疲れも大変さも忘れさせて、またもう一回......と思わせる魅力がある。遠くから眺める美しさや楽しみもあれば、そこに入って初めて知る美しさや楽しみもあるのだ。
さて、次の雪のシーズンに向けて、もう少し体力をつけておかないと。次回こそは、頂上からまた新しい雪景色を見るのだから。