特集 | 2014 SPRING/SUMMER
鉄とコンクリートの森を俯瞰する

都会でカヤックあそび

あそんだ人◯「外あそび」編集部/植田彰信

海であそぶといったら、車や電車に乗って砂浜のあるちょっと遠くの海まで
出かけなくてはならない、と都会に暮らすみなさんは思っていませんか?
けれど、いつも暮らしている都会のすぐ近くにも海は広がっています。
この都会の海でもあそべたらいいのに......と思ったら、ありました。横浜に。
陸にそびえるビルや海を渡る横浜ベイブリッジを眺めながら、
シーカヤックに挑戦です。

都会の海でカヤックあそびを教えてくれると聞いて、横浜港へ向かった。木々や山の代わりに迎えてくれたのは、街を横断する高速道路や、海にかかる横浜ベイブリッジ。そんなおよそ「外あそび」とは無縁そうな景色の中、アウトドア・ルックの人たちが知る人ぞ知る秘密基地に集まってくる。

「 美しい自然で楽しむカヤックも、もちろんいいですが、水の上から見える都会の景色は、またひと味ちがったものに見えますよ」

と、本日の先生、植田彰信さん。まずは陸でパドルの使い方の基本を習う。

「 人は、押し出す力の方が強いので、水を掻こうとするより、反対のパドルを空中に押し出す気持ちで力を入れたほうが、力強く漕げますよ」

なるほどと頭では分かっても、実際に海に出ると難しそう。海には潮の流れがあり、風があるのだ。海面を見ているとさざ波が立ち風が動いていくのが見える。ゆたゆたとうねりを持って動いているのも分かる。

そんな都会の海に二人乗りのカヤックを浮かべて乗り出した。「いーち、にー、いーち、にー」。声を出して息を合わせていく。自由自在に海面を滑る植田さんのように自分たちのカヤックを操ろうにも、これがなかなか思うようにいかない。右と左を同じような力加減で漕いでいるつもりでも、真っすぐ進まず曲がってしまうし、気がつけば流されている。

「 その場で回転したいときは、曲がりたい方と反対の水面をなでるようにするとカヤックを軸にして回れます! これも技として持っていると便利ですよ」

植田さんには、風も潮もすべてが見えているのだろうか......などと思いつつ、しばらく漕いでいると、パドルの重さや水面の波紋で、風がどこから吹いているのか、潮はどちらに流れているのか、今まで目には見えていなかったものが、感覚的に「見えて」きたような気がした。そして、その流れに乗ったり、時に逆らったりしながら海の上を浮遊していると、大きな海や風にあそんでもらっているような気がしてきた。とはいえ、まだまだ必死感は拭えず、植田さんのように体の一部のように軽々とカヤックを扱えるようになるには、修行が必要そうだ。

漕ぐことに少しだけ慣れて視線を上げると、横浜の海辺の景色があった。

「 いつもとちょっと違って見える感じが面白いですよね。都会の喧噪を違う目線から傍観する感覚というか」

確かに。何度となく見たことがある景色も、水面から見上げるとなんだか違う風景に見える。そして、スピーディに人や車が行き交う大都会の中で、自分のいるこの場所だけは、時間がゆっくりと優雅に流れているような気がして、ほんの少し優越感に包まれる。

「 カヤックに乗っていると、たまに時間が止まっているかのように感じることがあります。以前、四万十川を下ったときにそう感じたことが忘れられないのですが、こういう感覚を味わえることが、カヤックの醍醐味かもしれませんね。東京だと、隅田川もいいですよね。来年の春には、満開の桜を水の上から見上げてみたいですね」

大自然の中に身を置いて時間の感覚を取り戻すのもいいけれど、都会でいつもと違う角度からいつもの風景を眺めてみるのも面白い。水面から街を見上げながら、一方で日常を俯瞰で見るような感覚もある。カヤックを体験しながら、都会にも風が吹いて、海があって、水にも様々な表情があることを知ると、明日から目に映る景色も、いつもと少しだけ違って見えるかもしれない。

植田彰信 | 1976年大阪生まれ。1児の父。モンベルの入社後、アウトドアの楽しさに目覚める。現在は娘と一緒にカヤックに乗ることが何よりの楽しみ。 2014年の5月より、モンベルでは「モンベルカヌーツアーランチ付きアルフェック体験会横浜港」をスタート。お問い合わせは、モンベルリーフみなとみらい店まで。
http://event.montbell.jp/plan/
「外あそび」編集部 | 無印良品キャンプ場発行の「外あそび」編集スタッフ。アウトドアのさまざまな楽しみ方を探求し、海へ山へキャンプ場へと足を運び、いろいろな人に出会いながら、外あそびを楽しんでいます。

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