やっぱり、外
画面越しの絶景に感動はするけれど
そこに吹く風や温度や匂いや
たどり着くまでにかいた汗や
翌日の筋肉痛や、
そういう実感が恋しいから、
改めて思いっきり外とたわむれようと、
私たちは山を走ることにしました。
久々にその懐を借りて過ごしてみると、
やっぱり外ってやつは、
一筋縄ではいかない相手ではあれど
ともに過ごすのに、
最高に気持ちいい相棒でした!
山を走ったら、外への扉が開いた
あそんだ人◯中島英摩/久保田朋和&清藤千秋
*文中呼称:エマ=トレイルランナー、ボタ(夫)&千秋(妻)=インドア派シティランナー
エマ:初めてのトレイルラン、お疲れ様でした! 見て、あの山のてっぺんまで行って帰ってきたんですよ!
ボタ:やー、やれるもんですねー! 自分でも驚きです。
千秋:山の麓を走って、山を登って、そして下って......、普段の街中を走るジョギングだったら飽きちゃう長さ。でも、今日はあっという間でした!
エマ:高さはスタート地点から頂上まで220メートルくらいかな。
千秋:緩やかに登っていくんだろうと思っていたから、前半の急勾配の登りは本当にきつかったけど、徐々にジェットコースターみたいにスピードを体感できる下りの楽しさに気づいて、後半は「そのためなら!」と、登りもがんばれました。
ボタ:下りは「もっと長くていい」って思うくらい楽しかったなぁ。
エマ:二人とも、初めてなのに! 下りって、最初はどうしても怖いものだから、なかなかスピード出せないんです。
ボタ:僕は最初ちょっと怖かったけど、普段そこまで運動していない千秋が、がんがんエマさんに付いていくから、それ見てたら「負けられない!」って思って(笑)。
千秋:エマさんが手を上下に動かしながら下っていくのが楽しそうで、付いていきたくなっちゃって。
エマ:手ね! バランスを取ってるの。
千秋:エマさんが、「足元だけでなく1.5メートル先も見て」って教えてくれたから、頭も使っていた気がします。
ボタ:そうそう、どこに足を置くのか、動きながら瞬時に判断していかないといけないから、頭も感覚もフル回転でしたね。すごく集中していたと思うし、どんどん研ぎ澄まされていく感覚があったなぁ。
エマ:普段、都会では情報が溢れていて、その中に身を置いて何となく過ごしているけれど、山の中にいると五感の全てを使って、情報を自ら積極的にキャッチしていかないといけないですよね。それが山に入る面白さだなぁって、ボタさんと千秋さんと走って改めて感じていたんです。開放感と集中って相反するような気がするけど、その両方を同時に味わえるのがトレイルランかもなぁ、って。
ボタ:僕はそもそも山を登るっていうこと自体、小学生以来だったかも。
千秋:私もそうかも。自然のあるところに行くことはあっても、毎回、景色として眺めているだけですぐに飽きちゃっていたから、てっきり私はアウトドアに興味の持てないタイプだと思っていたんです。でも、今回トレイルランを通じて山に入る、山に触れるっていう体験をしたら、想像以上に楽しくて。
エマ:二人とも走ってる最中も楽しそうだったから、インドア派って聞いていたけれど、そうは思えなかったですよ(笑)。
千秋:雨上がりのしっとりとした空気も、汗をかいた肌に涼しい空気が触れてひんやりするのも気持ちよくて。あと私、虫が大嫌いなんですけど、なぜか平気だったんです。エマさんがいろんな植物や生物を見つけて、その度にうれしそうに解説してくれたのも楽しかったし。
エマ:キノコとかカタツムリとか、一見グロテスクな植物とか、山の中で出会うと可愛く見えるんですよね。
千秋:エマさんが見つけて教えてくれたギンリョウソウ* きれいでしたね! 知らなかった不思議な植物に出会えたのもうれしかったです。
*ギンリョウソウ=樹林帯にある白っぽく透き通るような植物。腐生植物と言って葉緑素を持たず光合成を行うことができないので、菌類に共生していること。別名ユウレイタケ。
ボタ:なんか、山に入ることで普段と感じ方が変わるのは面白い体験でしたね。途中休憩の時にエマさんにもらって食べたミニトマトのおいしさは忘れられないですし。山頂で食べたプラムも、疲れた体に染み渡ってうまかったなぁ。
エマ:でしょ! 身体も疲れて喉も乾いているから、ジューシーさと程よい甘さがちょうどいいんですよね。
ボタ:今まで登山する人の気持ちがまったく分からなかったけど、今なら分かる気がします。頂上からのあの景色を見たら、疲れも吹っ飛ぶというか。「そうか、こういうことか!」と。
千秋:頂上が近づいてくるにつれて晴れてきて、木々の間から光がさしこんで山の中が明るくなってくる様子も印象的だったよね。登り始めは小雨だっただけに、頂上で天候が良くなって青空まで見えたのには感動しちゃいました。
エマ:もしかしたら二人はこれから、都会のアスファルトの上をジョギングするだけでは、ものたりなくなっちゃうんじゃないですか? 山ほどハードじゃなくても、土の上を走れるような場所やハイキングコースって都会の近くにも意外とあるので、是非走ってみてほしい。
千秋:そうなんですね! 休日のジョギングは、土の上をコースにしてもいいかもね。あと、旅に行くときに、アトラクションとしてトレイルランを入れるとかもやってみたいね。
エマ:近くに"ごほうび"を見つけておくと、やる気も出ますよ。下山後に寄れる銭湯と町中華とかね!
ボタ:それ最高だなぁ。
千秋:いつもジョギングの時は手ぶらだったけど、ちょっとした買い物できるように、小さいザック背負って行くのもいいね。
ボタ:今回、こうして新しい世界を知ることができて、明日以降の自分がちょっと楽しみです。今回の体験で自分の中で感覚の解像度が上がったというか。休日にどんなことをしたくなるのか、外で過ごす時に何を感じるのかとかも、変化がありそうです。まぁ、同時に明日の筋肉痛は少し恐ろしいですけどね......(笑)。
エマ:山で遊ぶようになったら、筋肉痛もクセになっちゃうかもしれませんよ。だって、その痛みは山と思い切りたわむれた証拠ですから!