林さんちのリビングみたいな食堂
第1回 みくり食堂 林澄子さんインタビュー
プロフィール
林澄子さん:「みくり食堂」オーナー
住宅街の中にこじんまりとたたずむ、「みくり食堂」。3階建ての店舗兼住宅のすぐそばには小学校があり、開け放たれた扉から聞こえる子どもたちの声が心地よい。林澄子さんが、このお店をオープンしたのは2014年。オーガニックな食材をふんだんに使った定食は、素材の味がしっかりと保ちながらも、お母さんや友だちがつくってくれたような、やさしくて家庭的な味。
引っ越しをしてから2年間は手つかずだった店舗の設計と施工と手がけたのは、小豆島からやって来た2人の若者だったのだとか。
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- どうして、住宅街のこの場所でお店をオープンされようと思ったのですか?
- 林さん:
- 以前暮らしていた箕面市から、池田市あたりでお店をオープンしたくて、家とお店が一緒になっている物件をずっと探していたんです。このあたりは、山が近くにあって、大阪までは電車で20分とアクセスがいい。都会といなかが半分ずつなところが昔から好きなんです。
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- この物件はすぐに見つかったんですか?
- 林さん:
- 2年くらいかかったかな。知人の不動産屋さんが、親身になって探してくれて。何軒も一緒に内見に行きました。で、ある日、「スミちゃん(林さん)の家みつけた!」ってメールがきたんです。「スミちゃんが好きそうな古民家ではない、普通の住宅兼店舗だけれど…どうかしら?」と心配してくれていたのですが…私、一歩足を踏み入れた瞬間に「ここだ!」って思っちゃったんですよね。その感覚で決めました。
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- そして、すぐにお店をオープンされたのですか?
- 林さん:
- 住居は2階にありましたが、引っ越して2年くらいは、店舗部分は手つかずのままだったんです。で、2013年かな?瀬戸内国際芸術祭(以下、瀬戸芸)のカフェで働くことになって、4ヶ月くらい小豆島滞在していたんですね。そこで、若手建築家の向井くんと出会い、店舗設計をしてくれると言ってくれて!
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- それで、向井さんにお願いすることになったんですか?
- 林さん:
- 予算もすごく少なかったし、彼の事務所は小豆島だし、「えぇ!ほんまにええの?」と言いながら、結局おまかせすることにしました(笑)。瀬戸芸の宿泊施設のロビーで待ち合わせをして、毎日30分くらいの打ち合わせを積み重ねて。設計が決まって、いざ現場が動き出してももちろん毎日は来れなくて。だから、向井くんのお友だちの飯坂くんもお手伝いしてくれることになり、彼が毎日1人でつくりに来て、向井くんが週に1度小豆島からやって来るという(笑)。そんな風にして、数ヶ月かけてつくりあげていきました。
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- 設計だけではなく、工事も彼らが手がけたのですね。
- 林さん:
- そうなんです。電気、ガス、水道の設備関係は業者さんにお願いをして、それ以外はすべて彼ら2人でリノベーションしてくれたんです。でも、私はちょうどその頃、知人のお店の立ち上げに関わっていて。ごはんだけ作って仕事に出て、あとは2人にまかせっきりでした(笑)。
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- 頼もしいコンビ…!リノベーション前はどのような内装だったのですか?
- 林さん:
- 以前は設計事務所だったみたいで、厨房設備は新調して。他の機器はいただいたり、安く譲ってもらったものばかり。天井と床や、キッチンの奥にあるタイルはと以前のままだし。壁には、あまりいい素材とは言えない木の集成材みたいなものがパーンとあったので漆喰を塗って。
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- なにか、こだわりはあったんですか?
- 林さん:
- なーんにもありません(笑)。すべてが行き当たりばったりで。工事も、遊びに来た人とか息子が手伝ってくれました。「もしかして暇?だったら手伝う?」って言うと、みんな「やるやるー」って言ってくれて(笑)。だから、壁によって、漆喰やペンキを塗った人がちがうんです。
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- あ、キッチンの床に落書きがある!
- 林さん:
- そうなんですよー。息子が絵を描いちゃって。気に入ってるんだけど、自分の名前まで書いてたから「人の厨房に名前書かんといてー」って止めたんです(笑)
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- お店に入ったときから感じていたのですが、なんだかおうちっぽい雰囲気ですよね。
- 林さん:
- 遊びに来てくれた友だちが、私の部屋がそのまま1階に降りてきたみたいな感じだ、と言ってましたね。私、いろんな人が家に来て食卓を囲んで食べるのが大好きなんです。きっと私は、食事をつくることが好きっていうよりも、みんなと共有する時間が愛おしくて。お店は、その延長みたいな感覚なのかも。
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- 林さんちの、キッチンとリビングみたいですね。
- 林さん:
- そうかも(笑)。私、ほとんどの時間をここで過ごしているし。大きいお皿や、看板は作家のお友だちの夫婦がつくってくれたんですけれど、それ以外はほとんど自宅で使っていたものだから種類もばらばら。照明も、元々あるものをそのまま使ったり、友だちの作家さんから頂いたりして。ほんとに、すべてなりゆき。
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- テーブルなんかも、お持ちのものだったんですか?
- 林さん:
- テーブルはねぇ、私の大好きな作家さんがつくったものをいただいたんです。彼のつくるお店がすっごい好きで、内装もお願いしていたんですけど、お互いのタイミングが合わなくて。でも、憧れはすごいあって、お店をはじめる前に、彼が内装を手掛けたお店が閉店することを知って。そこで使っていたものを「絶対欲しいです!」って、譲ってもらったんです。
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- 人とのつながりが、お店をつくっているような気がします。
- 林さん:
- そうかもしれませんね。私、実は自分で「自然食のお店です」って言ったことはないんだけれど、お友だちとか気になる農家さんから仕入れたりしていたら、自然とまわりがそう言うようになって。それに、顔が見える関係がいいのかも。たとえば、農家さんのことを直接知らなくても、どういう人がどんな風に作っているのか、八百屋さんやお肉屋さんが教えてくれる。そうして出会った食材を「○○さんがめっちゃおいしいって言うてたな~」とか思いながらお料理をするのが楽しいんです。みんなね、効率が悪くても地道に作業してものを作っている人ばかりだから、いっそう愛着がわくのかな。
お店に入った瞬間、林さんの明るさにひきこまれ、居心地がよくってついつい長居をしてしまう。そんな空間と食を、いろんなひとを「巻き込んで」仲間たちとともにつくりあげてきた林さん。
次回は、林さんとぶらぶらと散歩をしながら、昔暮らしていたという団地周辺をはじめ、池田のお気に入りの場所を教えてもらいます。
みくり食堂 林澄子さん
2014年にオープン。野菜の移動販売を行うオーガニッククロッシングをはじめ、つながりのある人たちからの食材を大切につくった野菜中心の定食がメイン。