まちと生活を繋げる、秘密基地のはなし
第5回 アンテルームアパートメント大阪 所正人さん インタビュー
プロフィール
所正人さん:UDS株式会社 地域コーディネイト部
2013年3月、池田のまちに一つのシェアハウスが誕生しました。その名も「アンテルームアパートメント大阪」。アート&カルチャーという1つのコンセプトのもと、1棟のビルの中に全48室の居住空間が繰り広げられています。 商店街の中にひっそりと現れる入り口を通り中へ入ると、外の世界とは流れる空気がほんの少し変わったような不思議な空間。実はこのシェアハウス、もともと電話局の通信ビルとして使われていたビルをリノベーションし生まれたそうなんです。
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- 電話局の通信ビルをリノベーションされていますが、当時はどのような建物だったんでしょうか?
- 所さん:
- 1934年に建てられた古いビルで、電話の交換機が置いてあったり、電話料金を支払う窓口があったりと、電話局として使われていたんですね。何年も経ってから徐々に通信ビルとしての役目を終えて、使わなくなった空間では、福祉系の施設が入ったり、事務所として使用されていたそうです。
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- それがどうして、シェアハウスへと?
- 所さん:
- 月日が経つにつれ、空きスペースが目立ちはじめたんですね。そこで、どうすれば有効活用できるか?というご相談をいただきました。私たちは大阪よりも先に京都で、学生寮をリノベーションしたホテルとシェアハウスが組み合わさった施設「アンテルームアパートメント 京都」を運営していたので、その事例がきっかけの一つになっています。ビル自体はリノベーションする前は、タイルカーペットの床で、仕切りも何もないだだっ広い空間だったんですよ。天井が高かったので、大空間の迫力みたいなものはありましたね。
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- 本当に、今とは全然ちがう風景だったんですね。
- 所さん:
- そうですね。ただ、全体的には広いオフィス空間という印象だったんですが、階段の手すりをはじめ、今のビルにはないレトロな感じや懐かしい感じが、ところどころにあったんです。だからこの要素を残したままリノベーションしたらおもしろいんじゃないかな?と思いました。驚いたのは、商店街に直接アクセスできるという立地。ここにシェアハウスをつくることで、(もともと池田にいる)商店街の人たちと繋がりが生まれ、地域にとってもいいものができるんじゃないか。そんな期待を持ったのが第一印象でした。
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- そこから設計を進めるにあたって、アート&カルチャーというコンセプトにしたのは、なぜですか?
- 所さん:
- 若い世代の人に池田のまちを生活の場として選んでもらうには、何か注目される要素があったほうがよいのでは?と考えたのが一つです。アート&カルチャーというテーマに絞ることで、そのテーマに共感する人が入ってくる。そしてそういう人は、自身もクリエイティブなことをしていたり、住まいに関する関心が高く、おもしろく住みこなしてくれるのでは?という狙いもあったんです。あとは、住人が池田での生活を発信してくれることで、まちのおもしろさが外に広がっていくという効果も期待していました。
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- 実際にリノベーションはどのように行っていきましたか?
- 所さん:
- もとは事務所のビルなので、普通の建物よりも幅が広いんです。だからコンパクトな間取りで部屋をつくっていくと、無駄に廊下が広くなってしまうというのが課題でした。そこで、広い廊下をリビングのように捉えて空間をつくっていったらおもしろいんじゃないかと考え、ライブラリー、スタディールーム、リラクゼーションルーム、カフェスペースの4つの共用スペースをつくりました。通り過ぎる空間ではなく滞在する空間にすることで、住人同士の会話やコミュニケーションが生まれると思ったんです。共用スペースが分散していると、住み手の選択肢も増えるしおもしろい暮らしが生まれそうですよね。
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- いくつも共用スペースがあれば、気分によって自分の居場所を見つけることができていいですね。シェアハウス全体のテイストは、どうやってつくっていったんですか?
- 所さん:
- アート&カルチャーというテーマに沿って、当初からアーティストの作品を展示していく予定だったので、ギャラリーのように壁を白くしていきました。あと、アーティストの方には建物を解体している段階から打ち合わせに入ってもらって、どのあたりにどんな作品を飾ったらいいか一緒に考えていきましたね。ここに住むことで、その場所のカルチャーを知ってほしいと思い、名和晃平さんや高田幸平さんなど、大阪にゆかりのあるアーティストの方に参加してもらっています。高田さんに関して言えば、竣工後も滞在制作に参加していただいたんですよ。生活しながら住まいにあった作品をつくることで、他の入居者にとってもアーティストの方と交流できるいい機会になったと思います。
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- 第一印象で感じたレトロな印象は、どのように残されてるんですか?
- 所さん:
- 例えば壁を剥がしたところを、そのまま白く塗ったり、配管をむき出しにしてみたり。今は使っていない配管もあるんですけど、あえて撤去せず残しています。床もタイルを剥がしてから、クリア塗装という透明なコーティングをしただけの箇所も。そうすることでなんだか亀の甲羅のようなおもしろい模様ができました。解体してみるまでわからないことって多いと思うんです。やり進めていくうちに、おもしろいからこのまま使おうとか、予想が不可能なところがいいですよね。あんまりかっちりとつくってしまうと住み手も萎縮してしまうので、ラフな要素を残すことで、リラックスできる環境にできたと思いますね。
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- 壊していくことで見つけられる建物の良さは、リノベーションの醍醐味ですよね。そういうものを残すことで、どんな印象が生まれたと思いますか?
- 所さん:
- いい意味で住宅っぽくない印象が生まれたと思いますね。「海外のアパートみたい」とか「全然住宅っぽくなくてびっくりした」っていう感想をよくいただくんですよ。そこが結構狙い通り上手くいったと感じています。関西は東京に比べてシェアハウスがまだまだ一般に浸透していないと思うんです。入居者の方もシェアという暮らしが初めてという方が多いと思ったので、できるだ新生活がはじまるわくわく感を演出したかったんです。ちなみに、外観はほとんど手を入れてないんですよ。NTTのロゴマークもついたまま。この中に、シェアハウスという居住空間が入っているなんて思わないですよね。外と中が別の空間になるように見せたら、秘密基地みたいで結構わくわくするものができるんじゃないかって思ったんです。
商店街に繋がるようにして広がるシェアハウスは、新旧両方の良さを持ちながら、まちと住人を繋げる密かな場。その運営に携わる所さんは、普段は東京に住んでいるそう。そこで次回は、月に数回訪れるここ池田の良さを、外からの視点で案内してもらいました。
UDS株式会社 地域コーディネイト部
アンテルームアパートメント大阪 担当 所正人さん
電話局のビルをリノベーションしてつくられたシェアハウス。防音性に特化することでプライバシーが確保された個室と、ライブラリーやカフェスペースなど、さまざまな使い方ができる共有スペースが魅力。館内に飾られるアート作品とともに、豊かで刺激に満ちたシェアライフを過ごせる。