はじまりはニュージーランド
第7回 青空事務所/さつきやま森のようちえん 安田有美さん インタビュー

プロフィール
安田有美さん:青空事務所 主宰/「さつきやま森のようちえん」スタッフ

池田は、まちと山が隣り合わせ。歩いていると次第に大きな五月山が姿を現し、まるでまち全体を守っていてくれるように感じます。そんな五月山での活動を中心にエコツアーを開いているのが、青空事務所の安田有美さん。ナイトハイクなどをはじめ、五月山の自然の中へすっと入り込めるツアーを企画されています。
安田さんは池田へ移り住み約4年が経ちましたが、実は最初のきっかけは、池田に生まれた「さつきやま森のようちえん」のスタッフになることだったのだとか。

もともと先生という職業に興味があったんですか?
安田さん:
教職をとって先生になりたいなとは思っていたんですが、社会勉強も必要だと思って、大学卒業後は外食事業の会社へ入社したんです。3年くらいは経理として東京でOLをずっとしていました。でも次第に体がしんどくなってきて、自然の中に戻りたいなぁって。富山出身なんですけど、富山の緑が恋しくなってきたんです。
もともと自然に触れる生活が身近にあったんですね。
安田さん:
そう。それで、仕事を辞めて富山に戻るつもりだったのですが、富山に完全に戻ってしまう前に視野を広げたいと思い、思い切って海外にワーキングホリデーに行くことにしたんです。規模的にちょうどいいかなと思ってニュージーランドを選びました。自然も多いし人口もそんなに多くないし。
ニュージーランドではどんな生活を送っていたんですか?
安田さん:
最初は語学学校に通いながらホームステイ。そのあとWWOOFというシステムを使って、農家さんのところやモーテルに住み込みでお手伝いをさせてもらったんです。将来農業に携わりたいっていう思いがあったわけじゃないけど、ニュージーランドでしかできない体験をしてみたいなと思って。お金がかからないっていうことも魅力でしたね。4箇所くらい転々としているうちに、日本人観光客向けのトレッキングガイドの仕事ができるという情報を知り、面接に無事受かったので。ニュージーランドにいた最後の2ヶ月間くらいはガイドもやっていました。
※WWOOF:有機農家を中心としたホストと、農業や自然に興味がある人が繋がる交流システム。食事と寝床を提供する代わりに、労働力をもらう。
そうやって、ガイドという仕事に出会ったんですね。
安田さん:
そうなんです。それまで自然は身近にあったけど、登山はあまりしたことがなかったんですよ。でもニュージーランドに来てから、山へ入るようになりました。そんなこともあり、もうすぐ帰国してしまうし、まだやったことがないことをやってみたいと思い、ガイドの仕事に応募しました。
それがきっかけで、ガイドの仕事に興味を持つように?
安田さん:
興味を持ったのは、ニュージーランドでガイドさんと一緒に山を登ったことがきっかけかな。登りながら植物の名前や特徴を聞いたり、山の地理の話を聞いたりしていくうちに、山に対する感じ方が、いつもとは見え方が全然変わってきて。一人で歩くのとは違う楽しさがあるなって。だから帰国後もそういうことを伝えられる仕事ができたらいいなって、なんとなく思っていたのはありますね。
池田へは「さつきやま森のようちえん」のスタッフとして移り住んだのがきっかけだとお聞きしましたが、それはどうやって決まったんですか?
安田さん:
ニュージーランドにいた時に出会った日本人から、「長野県の安曇野にあるシャロムヒュッテというコミュニティがおもしろいよ」と教えてもらったのが事の始まり。帰国してから、ニュージーランドにいる時に体験したようなコミュニティが作れるといいなって考えていたんですね。自分の拠点があって、そこにいろいろな人が集って、農業をしたり仕事をしたり。そういう場や集まりが作れるといいなと思っていたんです。なので教えてもらったシャロムヒュッテに行ってみて、どんな感じなのかみてみようって。そしたらシャロムヒュッテで、現在の師匠の木村太郎さんに出会ったんです。
ニュージーランドに行ってなかったら、巡り合わなかったような出会いですね。
安田さん:
そうそう、不思議ですよね。太郎さんは自身でエコツアーガイドを行なっている方なんです。日本でガイドとして生計を立てている人がいるなんて、当時思ってもみなかったので衝撃でした。自分もそういう風にできるようになりたい!と思って、弟子入りさせてもらったんです。
弟子入りとは具体的にどんなことを?
安田さん:
ちょうどその頃、太郎さんと奥さんが一緒に「さつきやま森のようちえん」を始める頃で、一緒にようちえんをやってくれるスタッフを探していたんです。私は、太郎さんの側で勉強をさせてもらいたいと思っていたので、スタッフとして携わりながら太郎さんのツアーに参加したり、裏方として関わって勉強することにしました。
そうやって、池田へ移住されたんですね。「さつきやま森のようちえん」は、どんな風に子どもたちが過ごしているんですか?
安田さん:
「今やりたいことが一番目」という合言葉のもと、子どもたちが今やりたいことをとことんできる時間と場所を保証しているのが特徴ですね。親子クラスと幼稚園、小学部の3つに分かれています。例えば幼稚園の子たちは、季節にあったフィールドへ行って、自分たちのやりたいことをそこで実践する。川に行っておままごとをしている子もいれば、魚を捕まえようとしている子もいるし、同じ場所に行ってもさまざまですよ。お弁当を食べる時間も決まっていないんです。水曜日だけ「音の日」や「芸術の日」「料理の日」など特別プログラムが決まっていて、そこは講師の先生を招いてみんなで一緒にチャレンジしますが。
自分で選んで決めるというところが、おもしろいですね。
安田さん:
そうなんです。小学部の子は月曜日が野外活動の日なんですけど、最近のみんなのブームは野球。野球をやっていた子が一人いて、最初はその子だけがやっていたんですが、周りも興味を持ち出して。自分で野球の本を読んでチェンジアップやスリーアウトなどを覚え始めて、一緒に遊ぶようになったりとか。大人が変に誘導したり評価したり、批判したり、フィルターをかけて接しなければ、そのまま素直に育っていくんだなぁということが、彼らの姿を見てわかるようになりましたね。コーチングというコミュニケーションの手法をベースに運営しているので、喧嘩もむやみに止めずに、子どもたちが解決するサポートを大人はしていくっていう。
サポートをするのって難しそうです。
安田さん:
難しいですよ、毎日反省しています(笑)。私自身も教えられることが多いですね。でも子どもたちは何をするにも、選んで判断していくことが考えることに繋がるので、責任というものを自ずと学んでいくんですよね。
スタッフの方は今何人くらいいるんですか?
安田さん:
今はスタッフが8人と、園長先生が2人(木村夫妻)の計10名です。あと「さつきやま森のようちえん」は、WWOOFジャパンのホストにもなっているので、世界各地からここの仕事を体験しに来てくれています。今は心理学を専門に研究しているスペイン人の女性が来ているんだけど、本を出すためにいろいろな国に行き研究しているみたい。
WOOFERさん(WWOOFを利用する人)は、どのくらいの期間働くんですか?
安田さん:
一週間以上ですね。長い人だと1ヶ月くらいいるんじゃないかな。ヨーロッパやカナダ、台湾、シンガポールなど、ほんとうにいろんな国から。来てもらったWWOOFERさんには、その国の紹介をしてもらうんです。食べ物とか建築物とか、電車とか。前にドイツ人の男の子が来たときは、子どもたちと一緒に生パスタをつくったりしましたよ。子どもたちが知る世界や体験する世界というものは、自分が子どもの頃と比べたら全然違いますね。

「さつきやま森のようちえん」の始動から携わり、園とともに池田で暮らしてきた安田さん。一週間のうち半分はスタッフとして、半分は青空事務所としてツアーの企画運営されているそう。次回は、木村太郎さんへ弟子入りをしたその日から、どのようにして修行を重ね、五月山のガイドを始めたのかをお聞きします。

青空事務所/「さつきやま森のようちえん」スタッフ 安田有美さん

富山県出身、池田市在住。ニュージーランドでトレッキングガイドを経験。帰国後、木村太郎氏へ師事。エコツアーを行う青空事務所を構え、五月山でのナイトハイクなどを行う。「さつきやま森のようちえん」にはスタッフとして、スタート時から携わる。

DATA
https://officeaozora.sakura.ne.jp/index.php
http://ameblo.jp/morino-youchien/

池田の人と町の話