ここに在る、一つの資源の開きかた
第9回 GULIGULI 對中剛大さん インタビュー
プロフィール
對中剛大さん:GULIGULI プロデューサー
池田駅と石橋駅の間にあるGULIGULIは、ギャラリーを併設するカフェスペース。入口の門へ辿り着くと、向こう側には、力強く育つ木々が並んだ庭の姿が広がっています。門をくぐり一歩ずつ歩を進んでいくと、奥のカフェへ着く頃には、小さな森のなかにある家へ訪れたかのような気持ちに。そんなGULIGULIが池田へ誕生したのは、約3年前。長年この地域に拠点を置き営んできた荒木造園設計の、ショールームの役割を担って始まったそうなんです。
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- ショールームとしての役割というのは、どういうことなのでしょうか?
- 對中さん:
- 荒木造園設計は、大阪万博の日本庭園や中之島のリーガロイヤルホテルの庭園、あとは日本だけでなくドイツやキューバ、アメリカでも庭園を手がける歴史ある造園会社なんですね。日本のランドスケープデザイン界の礎を築いた会社といえます。そんな会社が社屋にカフェをつくることで、自分たちが手がける庭を見てもらう機会を増やし、もっと身近に感じてもらおうというのが一つの目的でした。
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- 對中さんは、どのようにして関わることになったのですか?
- 對中さん:
- 初めは、料理人としてここで働かないか?と誘われたのがきっかけです。
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- 料理人ですか!?
- 對中さん:
- そうなんです。僕はピクニックコーディネーターという肩書きで、料理を使って人と場所をつなげる活動をしているのですが、それがきっかけで、お誘いいただきました。話を聞いていくうちに、「自分がリタイアしたあともこの庭を知ってもらうことで、職人さんたちの次の仕事や活動へのきっかけをつくっていきたい」という社長さんの気持ちを知り、僕も企画として関わりたいなと思いました。僕自身も、当時ランドスケープデザインの設計事務所に務めていたこともあって、料理人としてではなく、場所と人をつなげる全体をプロデュースする役割として携わりたかったんです。
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- そうだったんですね。
- 對中さん:
- 今も荒木造園設計の会社は敷地内にあるんですが、以前はこの場所も会社の一部と社員寮だったんです。それを改装してつくることが決まっていました。僕が参加しはじめたときは、カフェとギャラリーをつくる計画でした。でも何か足りないなと思って。2階にコミュニティルームをつくって、ワークショップなどを開くことにしました。単純にカフェとしての機能だけでなく、学びや、ものづくりを体験してもらい地域の人が集うことができる場所として成り立たせるために必要だと思ったんです。ちなみにこの庭、毎日朝と晩に職人さんが手入れをしているんですよ。
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- そうやって維持されているんですね。
- 對中さん:
- 先代が屋久島が好きでゆかりがあったことから「屋久島の苔の森」をテーマにつくられています。珍しい屋久島の植物や管理の難しい苔などが植えられていたり、この地に長く植えられていた樹木もたくさんあります。こういった植物は自然の力だけで勝手に育っていくわけでなはく、毎日手入れを行うことで美しい風景が生き続けますよね。敷地内にとって「見るための庭」としてつくられています。一方で周辺からは「見える庭」でもある。プライベートな空間でもありながら、街の緑の一つでもあるんですね。庭や緑がいくつかあれば、街並みにも繋がる。このようにさまざまな側面を持つ庭は、職人さんあってのものです。では普段裏方として仕事をされている職人さんたちを、どのように表に出していくか?ということが自分の中の課題でした。だからコミュニティルームをつくって、毎月1回、緑の教室というのを開くことにしたんです。器に苔を植えたり、樹木の寄せ植えをしたり、職人さんが自分でテーマを決めて開催しています。それが結構人気なんですよ。あとはものづくりの会社ということで、ギャラリーで作品の展示を行い、作品を鑑賞するだけでなく制作した作家さんのことを知ってもらえる機会をつくりました。
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- 職人さんに出会い教えてもらう機会って、普段の生活ではあまりなさそうですもんね。
- 對中さん:
- そうですね。なので出会うきっかけとして、食事ができたりワークショップに参加できたりすることで、自然と人が集う場所になるように、気軽に来れるようにしたいなぁと思っていました。そういう時、料理って大事な役割になってきますよね。食事をすることは人間の三大欲求の一つですし、食べなければ生きていけないですし。食がここにあることで、造園や美術、ものづくりと人が繋がりやすくなっていく。人が集まるようになることでショールームとしての目的だけでなく、ひいては街全体にも変化が訪れるんじゃないかと思うんです。
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- なるほど。お店や場所は街をつくる要素の一つでもありますもんね。
- 對中さん:
- でもお店単体で考えると、いくら頑張っても波及効果が弱いと思うんです。そこで考えたのが池田全体として、人を呼べる楽しい場所、人が繋がっていける場所にするにはどうすればいいのか。例えばGULIGULIに来たお客さんが他のお店へ行ったり、他に来たお客さんがついでにGULIGULIに来たり。そういう流れをきちんとつくれたらいいなと思って。お店は街の貴重な資源であり、その資源がみんなで繋がると街はもっと魅力的になると思うんです。
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- そうやって生まれたのが、この地図ですか?
- 對中さん:
- はい。池田と石橋って隣の駅だけど、歩いたら結構遠いんですよ。でも実はレンタサイクルがあって、それぞれの駅で借りることができるんですね。自転車を借りればGULIGULIに来て、池田駅で返すっていうことが可能ですよね。一箇所で終わらずに、いろいろなところをまわれる。そうやってお店自体や考え方など僕たちがいいなと思っているところに足を運んでもらうことで、池田の街を知ってもらいたいと思って。
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- ピンポイントで知っているお店だけでなく、地図を見ることで池田の一面が見える。
- 對中さん:
- そうなんです。「次はここに行ったら?」って、地図に載っているお店同士で勝手に紹介し合うこともできますし。街にとって、とても重要なことだと思うんですよね。単なる回れるきっかけではなく、「このお店はこういうお店だからいいですよ」っていうのは、お互い信頼関係がないとなかなかできないじゃないですか。最近の日本は、自分たちのコミュニティを守るあまり、どんどん閉ざしていっていると思うんです。極端ですが普段の生活でも、知らない人と挨拶をしてはいけないとか、子どもが遊べる範囲を縮小したりだとか、だんだんと閉ざす方向へ進んでると思うんですよね。でもそれって逆にコミュニティの破綻じゃないかな。そうではなく、少し開いていくきっかけをどうつくるか?ということが、街にとって重要だと思うんです。徐々にですが僕たちがつくった地図を持って回ってくれる人も増えています。次はこの地図に載っているお店の方々と、池田のあちこちのお店や場所を使って、マルシェができればと、勝手に考えています。
庭や建物、お店と一つひとつ単体で見ていくとバラバラに思えるものが、パブリックの一部として機能し街並を築いていく。そしてそれが街やコミュニティを形づくる要素に。次回はパブリックやプライベートという言葉をヒントにしながら、對中さんと池田の街を歩いていきます。
GULIGULI 對中剛大さん
「屋久島の苔の森」をテーマにした庭と、カフェ、ギャラリー、コミュニティルームでつくられるスペース。「自然のごちそう」をテーマにしたカフェメニューにワークショップ、月単位で変わる展示が楽しめる。