池田で育む、母国の文化
第11回 jujudhau(ズーズーダウ)オーナー カドカさん インタビュー

プロフィール
カドカさん:jujudhau(ズーズーダウ)オーナー

池田駅からすぐ、緑溢れるカフェのような外観のjujudhau(ズーズーダウ)。小さなネパール料理のお店です。ネパールの国民食であるダルバートをはじめ、本場の味を池田の人へ知ってもらうべく、2015年にお店がはじまりました。
オーナーのカドカさんは2003年に来日し、約14年間も池田の町で暮らしているそう。植物園でのラジオ体操へお邪魔したり、猪名川で凧揚げをしたり…この町の暮らしをとっても満喫されているようです。

池田へ住むようになったのは、なぜですか?
カドカさん:
奥さんの実家が池田なんです。結婚した際に、結婚式を日本で行おうと、池田へやってきました。本当はネパールで暮らす予定だったんですが、そのまま日本へ住むことになって。自然が多いネパールと同じように、池田にも自然がたくさんあるし、都会からもそんなに遠くないし、人も優しいし。いい町で住みやすそうだなぁと思って。
そうなんですね。もともと母国でも料理の仕事をされていたんですか?
カドカさん:
違うんですよ。高校卒業後に日本語を勉強するために語学学校に通いました。そのうち、周りで旅行会社をはじめる人が増えて、観光ガイドとして働くようになったんです。主に山岳ガイドとして働いていて、日本語でガイドをすることもありましたよ。
ガイドさんだったんですね。でも、そもそもなぜ日本に興味を持ったんですか?
カドカさん:
小学生の頃にテレビで、日本のドラマ「おしん」が放送されていたんです。それを見ているうちに、日本の文化に興味を持つようになって、いつか行ってみたいと考えるようになりました。そうしたら仕事を通して、奥さんとたまたま出会うことができて。こうして日本に来ることになったんです。
奥さんとは、ネパールで知り合ったんですね!
カドカさん:
そうです。彼女はフラワーデザイナーなんですが、ヒマラヤに咲くブルーポピーという花を見学しにネパールへ来たんですね。で、僕がガイドをしたんです。出会いの花だから、お店のロゴのイメージにしてるんです。
では、お料理の仕事は日本に来てから始めたんですか?
カドカさん:
山岳ガイドをしていた頃から、自分で勉強していました。ガイド中にお客さんに料理を提供することもありましたし。けど、本格的にパンやケーキをはじめたのは、日本に来てからですね。最初は調理学校へ通いながら、豊中のベーカリーカフェで4年くらいパンの修行を積んで。それからケーキも学びたいなぁと思って、ホテルへ勤めたんです。今も梅田にあるホテルで、パンとケーキの仕事もしています。いつか日本のおいしいパンやケーキを自分の国にもって帰って、やりたいなぁと思ってるんです。
そうだったんですね。池田へお店を開店されたのは?
カドカさん:
ずっと母国の料理を知ってもらいたいという気持ちはあって。5〜6年くらい池田でちょうどいい物件を探していて、なかなか見つからなかったんです。この場所は、友人が以前ネパール料理のお店をやっていたんですが閉店することになり、「この物件でやったら?」と提案され、決めました。

「王様が食べるヨーグルト」「ヨーグルトの王様」という2つの意味を持つ、ズーズーダウ。昔ネパールの3つの街で王様がヨーグルトの大会を開き、1位に輝いたのが、カドカさんの地元・バクタプールだったそう。入口の時計には、現地のズーズーダウが描かれている

前もここにネパール料理店があったんですね。
カドカさん:
そうです。前のお店は国旗を飾っていたりアジアンチックで、ごちゃごちゃした雰囲気だったんですが、うちはシンプルに。キッチン部分はネパールのコンテナをイメージしてつくっています。ネパールのご飯が、そのコンテナから世界へ旅立つというコンセプトで。床は湖と山、雲をイメージして、水色と茶色、白の3色で作りました。地球を表そうと思ったんですが、ネパールには海がないので、代わりに湖です。地球を横断して、机へネパール料理が運ばれるというイメージですよ。壁のあちこちには、お釈迦様が悟りを開いた場である菩提樹の葉を。そして角のコーナーは、世界で一番高いところにある湖・ティリチョ湖を想像しています。ここで湖を見ながら菩提樹の下でゆっくりと食事をするという設定です。奥さんが中心となって、考えてくれました。
そういうわけで、他のネパール料理屋さんと雰囲気が違うんですね。池田に暮らしながら、お店もしていると、町自体に対してはどうですか?
カドカさん:
ちょうど五月山の近くに住んでいるので、自然が多くてとても好きです。来たばかりの頃は、五月山に何度も登りに行きました。母国を思い出して、ちょっぴり寂しい気持ちになった時も、お弁当を持って五月山へ。そうすると気分転換になったんですね。僕はネパールのバクタプールという町の出身なんですが、池田の自然が多いところや、神社やお寺が点在しているところは、地元とよく似ていると思います。あと植物園も好きですね。あそこも家族でよくごはんを持って行きますが、朝早く起きれた時は、一人でラジオ体操に参加することもありますよ。何度も通っているうちに、参加者のおじいちゃんおばあちゃんと仲良くなって。チャイを持って行ったりクッキーを持っていって、みんなでいただきます。
池田では、そういう場面があるんですね。五月山は最近も登っていますか?
カドカさん:
そうですね。お店を始める前はよく、子どもたちを連れて、カレーやお弁当、パンを持って登っていました。最近は知り合いの家族も一緒に、初日の出を五月山で見ています。展望台まで30分くらいで行けるんでね。上でお餅を焼いて、お雑煮を作ってみんなで食べて。5年くらい続けているんですが、ここ2年くらいはお店のコックさんも一緒に行っています。「こんなことができるなんて!」と、みんな喜んでますよ。来年からは五月山にテントを持っていって、お正月を過ごしたいという人も(笑)。そういえば展望台の近くの空間に、五月山の木々の絵を誰かが描いて、額縁に入れて飾ってあるんです。そこは、僕のお気に入りの秘密の場所。ミュージアムみたいなんですよ。
一度行ってみたいです。それに初日の出を見ながら、お雑煮を食べるのはとっても楽しそうですね。
カドカさん:
あとね、猪名川もよく行きますね。日本はお正月に凧揚げをしますよね?実はネパールにも凧揚げがあって。10月と11月に行われるダサインとティハールというお祭りのころに揚げるんです。その凧を持って、みんなで猪名川で凧揚げをしています。ネパールの凧揚げは、相手の凧と闘って紐を切らしたほうが勝ち。紐もすごく長くて、直線距離1kmくらいあるものもあるんです。コックさんたちも一緒に猪名川で揚げていたら、近所の子どもたちが集まってきて大喜びしていました。
日本で見る凧揚げとは、またひと味違う迫力がありそうですね。
カドカさん:
そうですね。家の近所の公園でも、毎年子どもと一緒に凧揚げをしているんですが、いつも子どもたちが集まってきて、順番に凧揚げをして遊んでいます。

両手で糸を持って素早く回転させながら、調節していくそう

子どもたちは、違う文化に自然と触れ合うことができて、素敵ですね。机の上に貼ってある、このお手紙はなんですか?
カドカさん:
これは呉服小学校や池田小学校などの子どもたちからの手紙です。実は国際学習として、文化や料理など、ネパールのことを時々教えに行っているんです。授業に参加した子どもたちから、お礼の手紙をもらったので飾っています。
そうなんですね! それはどうして始まったんですか?
カドカさん:
知り合いの先生や、ママ友の繋がりだったり。お店を始めてからは、お客さんから声をかけられることもできましたね。先生や子どもたちの希望を聞きながら、ネパールの楽器を持って行って授業をしてみたり、民族衣装を持って行ったり。スパイスを持っていってみたり。子どもが小さい頃は、保育園でカレーづくりやパンづくりもしていました。人に教えるということは、やっぱりとてもパワーが必要ですね。自分の知っているネパールだけでなく、何十年も前の時代のことも知らなければならないし、勉強が必要です。でももともとガイドの仕事をしていたし、知らないことを知ろうという興味が、自分の中でもどんどん湧いてきました。同じ料理でも、民族の料理を知ろうとか。これからは自分が開くイベントとして、「五月山でカレーづくりやパンづくりを楽しみましょう」ということをやってみたいなと思っています。

国際交流や文化交流と考えると、大きなことのように感じますが、カドカさんの話から感じるのは、なんだかとても自然なことなのでは?ということ。ネパールと池田、そしてバクタプールと池田というそれぞれの暮らしが溶け込み混ざり合い、小さな波となってこの町全体に広がっているようです。

jujudhau(ズーズーダウ) カドカさん

現地の味を提供するネパール料理店。 ダル(豆)スープと、パート(ごはん)、カレー、お漬物、ひよこ豆のおせんべいがワンプレートになったダルバートや、パンづくりのプロならではのナンなどを用意。

DATA
大阪府池田市室町1-3 井関ビル1階
072-737-7188
11:00 − 15:00、17:30 − 23:00
不定休
http://www.localplace.jp/t100137393/

池田の人と町の話