散りばめられた思い出が、町の姿を強くする
第13回 Sparrow House 細谷洋介さん インタビュー
プロフィール
細谷洋介さん:アンティーク&カフェ「Sparrow House」オーナー
アンティーク&カフェ Sparrow Houseの細谷さんが、この町へやってきたのは、ちょうど宅地開発が始まった約55年前のこと。子どもの頃と現在ではもちろん大きく町の様子が変わっていますが、あちこちに思い出が残っているようです。そんな細谷さんの思い出を辿りながら、「昔の池田」を歩いてみると・・・。
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- お店から阪急バスに乗り、五月山の近くまでやってきました。
- 細谷さん:
- 今乗ってきたバスは、昔は2つ先のバス停で終点だったんです。それくらい、まだ道路ができてなくて。昭和35年前後にこの辺りに団地の造成が始まったんですが、それまでは山林でしたから。団地を建てるついでに、道路よりこちら側を分譲するという区画整理があったんですが、その抽選にうちの親父が当たったんですね。僕が2歳のときに引っ越すことになりました。
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- ものごころついた時から、このあたりに住んでるんですね。
- 細谷さん:
- そうですね。バス停から少し行ったこの辺りにね、実家があったんです。両親が亡くなって、5年前に処分してしまったんですが。この辺もだいぶ人が入れ替わりましたね。昔は月星シューズの社宅なんかもあって。ここにね、スイセンの花があるでしょう。実はこれ、親父が球根をばらまいたんですよ。
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- え、ここにですか?
- 細谷さん:
- 家を改築する時に庭の花を捨てるのが忍びないと言って、勝手に植えたんです。そしたら球根がどんどん増えて(笑)。こんなにスイセンだらけになるなんて、思いもしませんでした。隣にあるツツジとかもそうですね。
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- それがきっかけで、毎年咲き続けてるんですね。
- 細谷さん:
- うちが勝手に植えたのに、誰かが剪定してくれてはるみたいで。あとね、山へ入っていくこの道の木は全部桜なんです。僕が幼稚園くらいの時に、ボーイスカウトが植えたんですが、全部ソメイヨシノ。でも1本だけ、親父が植えた木があるんですよ。
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- 桜を植えたんですか!?
- 細谷さん:
- そうそう、一番下の弟が生まれた時に「記念樹や」って勝手に(笑)。親父は香川の奥のほうの出身だったから、田舎の感覚で生活してたんですよね。だから都会の人からすると、驚くようなことをいろいろやってたんですよ。この斜面は、もともとただの山肌で、石垣も僕が幼稚園の時にできたかな。
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- 途中から舗装されたんですね。
- 細谷さん:
- この上に、山の家という池田市立のユースホステルを建てることになって、石垣をつくって舗装したんです。ボーイスカウトが桜を植えたのもそのときですね。去年解体されてしまったのでもう跡地になっていますが、ユースホステルとして使われたあとは、イベントや研修の施設として、そのあとはフリースクールとして活用されていました。
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- そういう建物があったなんて、知らなかったです。この道自体は、子どもの頃からよく散歩されてたんですか?
- 細谷さん:
- そうですね。うちの家は犬を飼っていたので、犬の散歩でよくこの道を歩いていました。当時は民家も少ないし、そんななか松の巨木が立っていたりして結構怖かったな。コリーと秋田犬を飼っていたんだけど、なめられてね。犬はおかまいなしに、どんどん上へ進んでいくんですよ。
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- 山道でもいきいきとしてそうですね。
- 細谷さん:
- そういえば五月山に展望台ができたのも、僕が幼稚園に通っていたころだったと思います。その頃、テレビや本でハイキングというものを知って。自分もやってみたいと思って母親に弁当をつくってもらったんです。それで一人で展望台まで登って弁当を食べましたね。校区の関係で、近所に同じ小学校の友だちがいなかったので、一人で遊ぶことも多かったな。
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- どんな遊びをされてたんですか?
- 細谷さん:
- 山で遊ぶか、川へ釣りに行くか…。小学生の時に一人で淡路島にも行きましたからね。電車に乗って播但汽船に乗って、釣りしに行くんです。友だちとは秘密基地づくりなんかもやりましたね。
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- やっぱり男の子は、秘密基地をつくるものなんですね。どこにつくったんですか?
- 細谷さん:
- 五月山に杉ヶ谷という沢のような場所があって、そこへ。そっちのほうに行ってみましょう。
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- どんな秘密基地をつくっていたんですか?
- 細谷さん:
- 結構ええかげんですよ(笑)。廃材とかを使って、小屋をつくるんです。屋根に使うのは、例えばその辺に生えているシュロの木。ノコギリを持って登って、切って材料にするんです。ただね、全然秘密じゃないんですよ。通る人から見えるし。でも僕ら子どもの間では秘密基地ということになっていました。
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- ノコギリで材木を切って入手するなんて、気合が入っていますね。
- 細谷さん:
- あと金槌とペンチを使ったり。でも子どもがつくるものですから、そんなにちゃんとしたものはできないんです。押したら倒れるくらいの感じですよ。よく四国のいとこがこっちへ遊びに来た時に二人でつくっていたんですが、帰ったあとに手紙がくるんです。「基地はどうなっていますか?偵察してください」って。行ってみると、屋根に蜂の巣がいっぱいあったりして…、あと当時は野犬が多かったので、僕たちの秘密基地が雨宿りの場になったりして、怖かったですね。
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- 手紙で偵察を頼むというのが、その頃しか味わえない秘密の嗜み方という感じがします。
- 細谷さん:
- もちろんメールとかがない時代ですから。そういえば自分の息子に、僕が子ども時代に秘密基地をつくったことを教えてやろうと思って、彼が小学校に上がった頃つくってあげたんですよ。でも僕がつくったら、かなり立派なものになってしまいました(笑)。
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- 山や木々が身近にあるからこそ、体験できる遊びですよね。長年暮らしてきて、大人になった今、好きな景色とはどんなものでしょう?
- 細谷さん:
- このまま伊居太神社のほうを通って降りていくと、古い家が残る町並みがあるので、案内します。
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- 小さな家がたくさん密集しているんですね。
- 細谷さん:
- 綾羽という地名の場所なんですが、池田のなかでもあまり変化していない一角ですね。住居として残っている長屋が多いんです。周りは開発が進んで姿を変えていますが、ここ一角はマンションが建つこともなく、基本的に変わっていないんですよ。僕のような商売をしている者にとっては、一番興味がある場所ですね。店を始める頃、この辺りも考えていたんです。でも修繕にかかる費用が大変で。
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- すぐそばが大通りなのに、雰囲気が全然違います。
- 細谷さん:
- こういう街並みを見ていると勉強になります。だから好きというよりも、商売上の知識として欲しているのかもしれないな。店で扱っているものは日常生活のなかで使われるものが多いから、どのような環境でどのように使われていたのか知りたくなる。新興住宅地のように人の生活臭がう薄いところには、あまり興味が持てません。
Sparrow House 細谷洋介さん
ホーローやブリキ製品、未使用のデッドストックの雑貨など、昭和の時代に生まれたアンティーク&レトロ雑貨を販売。カフェスペースでは、シフォンケーキやチーズケーキなど自家製スイーツがいただける。