連載ブログ 青山物語

開店前―「しゃけは全身しゃけなんだ」

2011年08月10日

鮭の胴体に2本の点線。商品開発会議の席上で、食品担当者の提示した1枚の絵が、その場をワッ!とわかせた。
「鮭の缶詰は見栄えをよくするために、形が揃った胴体の部分だけ使われています。頭やしっぽのまわりにもおいしい身がついているので、無駄なく使いたいと思います」
鮭の全身を使った缶詰が生まれた。
付けられたコピーは、「しゃけは全身しゃけなんだ」。
田中一光さんのアートディレクションのもと、ポスターや新聞広告に使われ、大きな注目を集めた。

無印良品が世に出たのは、この鮭の缶詰が登場する前年(1980年)のこと。
その時のキャッチフレーズは、「わけあって安い」。
大量生産、大量販売による安さではなく、モノづくりのムダを省き、発想を変えることで安くする──そんな無印良品の考えを、短いフレーズの中に凝縮した。この言葉は、その後の無印良品のモノづくりの指針になり、30年経った今でも、そのワケが追及され続けている。

'81年秋には、赤ちゃんの肌を守りたいという願いから、ベビー衣料が登場。素のままの思いこそ「愛」ではないかという思いを込めて、「愛は飾らない」のコピーが生まれた。この言葉は企業メッセージとして定着し、折に触れ使われている。

一方、「安さのワケ」や「つくられかた」を短い文章で表現し、パッケージ上で伝える方法もとられた。デメリット表示では? とビックリされたが、お客様からは「この1~2行の説明で、安心して、納得して、胸を張って買える」と評価された。

小池一子さんを中心につくられた数々のコピーが、無印良品の考え方とスピリットを伝えていった。振り返ってみると、一小売業のオリジナル商品が比類ないユニークな商品に高められたのは、短い言葉で明快に伝えた、この「情報」の質の高さによるものではないかと思われる。

こうして青山開店前に、「情報」による理解は急速に広がっていった。
むしろ「情報」と「商品」がシンクロし、独特の共感やファッション性を生み出していた。
しかしまだ、それを表現する「場」がなかった。