連載ブログ 青山物語

開店に向けて―「ふさわしい環境」

2011年09月07日

青山の開店に向けて、無印の考え方を具現するような斬新な店舗デザインが考えられた。それまで、西友・西武百貨店をはじめ既に240店舗で販売されてはいたが、 「良い売り場環境」はまだ出来上がっていなかった。青山でやっと、商品や情報にふさわしい環境が整ったことになる。
内外装が出来上がり、什器備品が入った時の驚きは、今で忘れられない。素材をそのまま使った粗削りな空間ではあったが、どことなく昔の市場のぬくもりや素朴さを感じさせる。空間そのものが、無印のようだった。これは素晴らしい、絶対に商品に似合う、と確信した。この場でどんな新鮮な提案ができるだろう、と思うとワクワクした。

「一般的な店舗の※CIは、マークや色で統一し形成される。しかし無印の場合は素材そのものを大切にしようと考えた。皮膚感覚のあるハイタッチな素材が、より一層無印を引き立たせると思った。」──アートディレクター、田中一光さんの言葉だ。
社長(堤清二さん)からも、こんな指摘があった。「素材に情報価値を付けられないか?たとえば、古いゴルフ場の廃材を使えば、スパイクの跡がついている。これはなんだろうという会話につながる。古い材料やワケのある素材には、説明が無くても、語りかけてくるものがある。そこに情報価値が生まれるから面白い。」

天井はコンクリートの打ちっぱなし、パイプやダクトもむき出しのスケルトン仕上げ。内外装に使われる素材は、木(古材)、金属(亜鉛鋼板)、石(レンガ、コンクリート)に限られた。
建物の外壁には、明治時代の煉瓦工場に残っていた古い溶鉱炉の内壁が使われた。

風化に耐えた独特のぬくもりがあり、不揃いな色や欠けがかえって味わいになり、パッチワークのような面白さを生み出した。亜鉛鋼板はトタン板やステンレスなどより安価なものだが、素朴に光っていた。

店内の床や棚には、信州の旧家を解体した古材が利用された。粗削りで使い古された床材が、捨てられずに再生された。虫食いや煤けた色が歴史を物語り、郷愁を感じさせる。安価でありながら、完全な乾燥材で狂いも少ない。捨てられているもの、置き去られているものの価値が光る。「われ椎茸」と「床材」が、「無駄にしない」という同じコンセプトでつながっていた。
また、什器として使用された飼い葉桶や籠にも、生活の歴史が刻み込まれていた。

この空間に商品を陳列してみると、白や自然色の多い無印良品が実によくなじんだ。
開店後、雑誌「住宅画報」には次のようなコメントが載せられた。
「シンプルさがとても新鮮で、新しいライフスタイルが大うけだが、コンンクリートの荒々しさをそのまま生かした、スタジオ風インテリアだけでも一見の価値がある。」

※CI=コーポレートアイデンティティ(Corporate Identity 略称:CI)は、企業がもつ特徴や理念を体系的に整理し、簡潔に表したもの。
一般顧客からみて企業を識別できるような、その企業に特有のもの。また、これを外部に公開することでその企業の存在を広く認知させるマーケティング手法のこと。