開店に向けて―「おもしろい店みつけた」
青山では、あえてマスコミ宣伝をしない方法がとられた。
この小さなお店は、無印らしく、地味な口コミや雑誌、新聞の記事で広まってほしいと思った。青山は、情報が集まり広がる所である。そして、マスコミの人々が立ち動く所でもある。実際に立ち寄っていただいて「こんな面白い店をみつけた!」と話題になれば、店自体が情報の発信の場になると思った。( まったく不安がなかったと言えば、うそになるが... )
開店告知のポスターは、買物かごを提げたお母さんと、アジアのバザールをイメージした素朴なイラスト入り。地下鉄の駅や近くのレストラン、バーなどに貼らせてもらった。また、情報誌「パサール」もつくられた。「困ったような楽しいような」をテーマに、11人のクリエーターの方々に自由に執筆していただいた。浅井慎平さんに提供していただいた3枚の写真「空」「水」「風」は、開店のプレゼントポスターとして使われ、大好評だった。
2階に上がる階段の壁面には、福田繁雄さんのイラストで、通称「御用マーク」が取り付けられた。無印良品と書いた「札」を、手でグイッと押し出した御用提灯のようなマーク。「これはいかがか?」と宣言しているような力強さがあった。
入口のショーウインドーは、ガラス素通しで、2階までの吹き抜け。ここには、前年大ヒットした「無印良品自転車22型」が天井から3台吊り下げられ、道行く人々の注目を集めた。パーツも陳列したため、通りすがりのお客様に「ここは自転車屋さんですか?」と質問される一幕もあった。社長(堤清二さん)からは、「アルバイト女性30人くらいに自転車に乗ってもらい、ここ(青山)から銀座まで行進したら話題になるのでは?」と言われたが、「道路交通法」の問題もあり、ボトムアップで却下された。正面のガラスには「愛は飾らない」の文字が白いシルクで印刷された。
店内BGMは、YMOの細野晴臣さんの作曲。家事や買い物をキモチよくする環境音楽、というテーマだった。「おだやかな不思議な雰囲気を醸し出している」(アンアン)、「鈴を振るような優しい音楽」(オリーブ)、「疲れた頭と心をリフレッシュしてくれる」(住宅画報)など、たくさんの雑誌に取り上げられて評判になった。音楽に対する関心の高さと、その大きな力に改めて驚いたものだ。