連載ブログ 青山物語

開店―「希望」

2011年10月12日

「読みが甘い!」上司に嬉しそうに叱られたのは初めてだった。
青山は好調に売り上げを伸ばし、1カ月で年間売上目標を達成した。しかも来店客の80%以上が購入者という、圧倒的な支持を集めた。

特に衣料品は「生成りシリーズ」を中心に、ファッションの街・青山で認められた。
その効果は全国に広がり、青山開店前は29%しかなかった衣料品の売上構成比が、一気に41%に跳ね上がった。ファッションは、商品・場所・情報がピタリと合ったときブレークすることを知る。食品は「黒糖かりんとう」や「ポテトチップ」などの菓子類が好調だった。生活雑貨では再生クラフト紙を使った文具が、学生を中心に大人気になった。いずれも30年後の現在、無印の中心商品として育っている。

  • 生成りシリーズ
  • 大学ノートを中心とした文具類

青山の好調ぶりが、スタッフやクリエーターの"ヤル気"を大いに盛り上げた。メーカーや産地の協力度も飛躍的に上がり、商品開発に拍車がかかった。
青山の開店時には全商品で418アイテムしかなかったのだが、その年の秋(10月)には新たに421アイテムが発売された。青山効果で倍増である。いつの時代でも、「ほめられて伸びる人」はたくさんいるのかも知れない。

出店や提携のオファーも相次いだ。開店のざわつきがまだ収まらない内に、もう梅田の阪神百貨店から出店のオファーが来た。「梅田駅前のぺデストリアンデッキの入口、一番良い場所を空けるから出店してください...」。
西武百貨店渋谷店(B館)には、早々に青山モデルの売り場がつくられた。青山開店の2カ月後という離れ業であった。

無印良品青山の店づくりをそのまま持ち込んだ西部百貨店渋谷店インショップ出典元:無印良品[白書](発行 株式会社スミス)

「無印良品青山」がもたらしてくれたものは、たくさんある。
知名度が上がり、専門店運営、FC店、商品開発、供給体制など、数限りない仕事の工夫や改善につながった。その中で、最も重要なことは何であっただろうか。
この店を思い起こして、あえて一言に込めれば、それは「希望をつくった」ということになる。
担当したスタッフ、クリエーターやお取引先だけではなく、他の店舗で働くすべての人々、支持してくださったお客様も含めて、この小さなお店は次へのたくさんの「希望」をつくってくれた。