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道を巡る旅

2013年08月21日

合言葉は「Buen camino!!(ブエンカミノ)」
そんな掛け声が、サンティアゴ・デ・コンポステーラへの巡礼路に行き交います。
スペイン語でBuenは良い、Caminoは道を意味し、
ここでは「良い巡礼を!」といったところでしょう。

イエス・キリストの使徒の一人である聖ヤコブの遺体を祀った
サンティアゴ・デ・コンポステーラの大聖堂は、エルサレム、バチカンと並び
キリスト教の三代聖地として崇められ、
現在でもヨーロッパ各国はもとより世界中から年間10万人を越える巡礼者が
彼の地を参拝に自らの足でやってきます。

最盛期の12世紀には50万人を越える巡礼者がいたそうです。

その道はいつしかカミノ・デ・サンティアゴ(Camino de Santiago)
と呼ばれるようになりました。

熱心な信者はサンティアゴからさらに西に90kmにあるフィニステレ(Finisterre)、
または現地ガリシア語でフィステーラ(Fisterra)にある大西洋を望む岬を目指します。

中世の頃はこの場所が大陸の果て(Fin de la tierra)と考えられていて、
巡礼者たちはこの岬で巡礼に使った道具を燃やし、新しい人生のスタートを切るのです。

かつてのローマ軍の交易路を利用した巡礼路は
ヨーロッパ各地から網の目のように延びていますが、
現代において人気の高いのは、イベリア半島の付け根に跨るピレネー山脈の
麓を起点とする"フランスの道"と呼ばれるコースです。

道中各所には" アルベルゲ(Albergue)"と呼ばれる巡礼宿が格安で提供され、
またレストランでもメヌー・デル・ペレグリーノ(Menu del peregrino)という
ボリュームたっぷりの食事が用意されています。

巡礼者はクレデンシアルと呼ばれる手帳に、
各地の宿や教会などでスタンプをもらうことが、
巡礼の証明として必須条件。

街道の人々も巡礼者に優しく、道に迷ったりしていると、
「こっちですよ」と教えてくれます。
そんな道の歴史が育んだホスピタリティも、巡礼路の魅力の一つ。

なんだか四国のお遍路と似ていますね。
納経帳にお接待、善根宿など、同じような文化が日本にもあります。
全長1000kmを越える巡礼路というのは、
世界で見てもカミノ・デ・サンティアゴとお遍路だけと言われています。

巡礼は非キリスト教徒にも広く開かれ、
また、一度に巡礼をやりきれなくても分割して歩くことが認められています。
ただし、巡礼には最低の基準が設けられていて、サンティアゴまで徒歩なら100km、
自転車や馬なら200km以上の距離を巡礼することが定められています。

これは徒歩なら約3~4日、自転車なら2日で完走出来る距離です。
人気のフランスの道でも約800km、
熱心なキリスト教徒は昔に倣って数千Km離れた自宅から始める人も多いので、
巡礼を"旅"として捉えるなら、若干短いと感じるかもしれません。
2泊や3泊だったら"旅行"と表現したほうが的確ではないか、と。

旅行と旅。
似ているようで違うこの2つの言葉の違いはいったいどこにあるのでしょうか。
少し旅行と旅の違いについて考えてみましょう。

どちらの言葉も現在拠点としている場所から別な土地へ行くことを意味しますが、
旅行は目的地である土地や場所に重きを置くことに対し、
旅は移動そのものに、より比重が置かれていると感じます。

簡単に言うと、点と点で土地を跨いでいく行為が旅行で、
線で繋いでいく行為が旅、なのかもしれません。

交通機関を使って大きく土地を移動すると、一瞬で景色は劇的に変化します。
目に見える変化、というものは分かりやすく僕達に変化の実感を湧かせてくれます。
ただし、その分かりやすさに時々僕たちは、
そこから何かを考えていくことを止めてしまうことがあります。

一方、徒歩や自転車のような手段で移動をすると、
目に見える変化は一日の中でも少ないのですが、でもそれは決して退屈ではありません。

ハンドルを伝う僅かな振動に普段気づくことの出来ない大地の感触を感じ、
あるいは地平の向こうに見える数十分後の自分と対話し、思想を深めます。
そんな発見と自問自答を繰り返しているうちに、
新しい土地にたどり着いていることでしょう。

大事なことは、受動的に物事を捉えるのではなく、
能動的に五感を使って物事を捉えていくことです。

ですから、道を行き、あたりに漂う花の香りや、頬をなでる風の優しさ、
通り過ぎた風が静かにざわめく草原の音に気づくことが出来れば、
それは日数に関係なく"旅"といえると思います。
そうして見つけた気づきに自分なりの色を足してゆくこと。
そんな時間が旅そのもののような気がします。

"旅"とは地図や写真、本などで見た平面を、
五感を使って立体的にしていく作業と言い換えることも出来るかもしれません。

旅は普段の暮らしの中ではなかなか見つけることの
出来ない小さな発見をそっと教えてくれます。
日数や距離に関係なく、小さな変化を大事にする気付きの心持ちで
どこかの土地を巡ってみてはいかがでしょうか。

それでは、Buen camino!!

  • プロフィール 元無印良品の店舗スタッフ

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