亀の歩みは万里を刻む
Adios Espana!!Bonjour France !!
イベリア半島をぐるりと走ったポルトガル・スペインを抜け、
ピレネー山脈を越えるとそこはフランス。
もともとスポーツ自転車が盛んなヨーロッパですが、
フランスに入るとその数は随分増えました。
それもそのはず、フランスは自転車の一大レース、
ツール・ド・フランスの国。
サッカーのワールドカップやオリンピックに次ぐ市場規模を誇り、
毎年行われるスポーツイベントでは世界最大級のイベントです。
ちょうど訪れた南仏の街が、そのツール・ド・フランスの
ステージレースのゴール地点だったので
その様子を覗いて来ました。
ゴール前の沿道は、レース最大の見せ場であるラストスプリントを
見届けようとする人でぎっしり。
さながら黒山の街路樹といった様子の最後の直線を、
選手たちが熱気にも似た
独特のうねりを従えて目の前を一瞬で横切って行きました。
ロードバイクと呼ばれるスポーツバイクの最高速は
トップ選手ともなると
瞬間的に80kmを超えるとも言われます。
一方の僕の自転車はというと
当然ツール・ド・フランスの選手たちのような
スピードを出すことは出来ません。
懸命に漕いで40kmが関の山です。
ロードバイクとツーリングバイク。
一見すると同じような姿形ですが、このスピード性能に見て取れるように
実際は似ているようで非なるものです。
例えばタイヤはロードバイクが700cという経の大きく
幅の細いタイヤを使用し、転がり性能を高めているのに対し、
ツーリングバイクではそれより
小さく太めの26インチタイヤが標準的。
フレームの素材もカーボンやチタンなどを使い究極の軽さを
求めるロードバイクとは反対に、
ツーリングバイクは昔ながらのクロームモリブデン鋼という
鉄の一種を使用しています。
しかし、それらによって繰り出すことの出来るスピードに違いこそあれども、
そこには決して優劣関係はありません。
ロードバイクは決められた一定の距離でのスピードを競うものですが、
自転車ツーリングは、
ロードバイクよりも長い距離を長い日数をかけて走ります。
特に海外の長期ツーリングともなると、
場所によっては故障の発生は致命的。
トラブル無く走ることが計画の遂行を可能にし、
また、万が一故障が発生した場合に速やかに修理を可能にするため、
世界的に入手のしやすい26インチタイヤや、
小さな町工場でも溶接可能な鉄のフレームを選ぶわけです。
「はやい」にも「早い」「速い」「疾い」とあるように、
目に見える分かりやすい速さを求めるのでなく、
本来の目的に対しての「はやさ」を求めることが肝要です。
ロードバイクの「速さ」には敵いませんが、ツーリングバイクにおいては
亀の歩みのように滞り無く進むことが最も「早い」のです。
また、ドロップハンドルと呼ばれる立体的な流線型をしたハンドルバーは
どちらにも共通する形ですが、これも求められる役割は、
片や空気抵抗を極限に下げる姿勢の実現のため。
もう一方は握ることの出来るハンドルポジションを増やすことで、
姿勢のリラックスを促すためです。
同じ形であっても、
きちんと求めるべき役割を見定めることは大事ですね。
それは日本で一般的ないわゆるママチャリと
呼ばれる自転車でも一緒かもしれません。
重く、ずんぐりとしたフォルムですが、
裏返せばそれは日常生活にハードに耐えうる頑強さと、
頻繁な乗り降りを想定した形があのU字フレームに込められています。
信号が多く停車が増える日本の日常では、
前のめりの前傾姿勢は必要ありません。
求められるのは、周囲の視界が広く取れ、
たくさんの食材をカゴに詰めた状態でも
さっと地面に足を着けることの出来る安定感です。
ママチャリというのも実は日常が生み出した、
暮らしの足のカタチなのです。
実のところ物事というものは、
自然においても人工的なものにおいても、
それらがどうしてこのカタチであるのか、
ほとんどに理由がある気がします。
だからこそ、ものごとの本質を見極める審美眼を養っていくことこそが
それらの価値を引き出す最良の手段なのではないかと思います。