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素敵な惑星プラネットバオバブ

2014年01月29日

ジンバブエ西部にある第二の土地ブラワヨ。
首都のハラレもそうですが、この街も碁盤状に綺麗にストリートが交差する計画都市です。
繁華街は人もまばらで、近代的な景観も含めて、
どこかアメリカ南部の都市を思い起こさせる不思議な街でした。

あれだけ好奇心旺盛で人懐こかった子どもたちも、
この国ではシャイで大人しく、
ジンバブエはアフリカでも独特な一面を持った国に感じました。

ブラワヨの南に30㎞行ったところにマトボ丘陵という場所があります。
ジンバブエとは現地チェワ語で石の家の意味だそうですが、
かつてのジンバブエドルには石の重なった絵がプリントされています。

このマトボ丘陵は、そんなジンバブエらしい奇岩があちこちに点在する場所でした。

そんな奇岩帯を抜け、36カ国目のボツワナに入ると、
一転してどこまでも続く平地帯へと変わります。
手元のボツワナ地図には何箇所も「Pan」と書かれた地名が並びます。

かつて旅したアメリカのテキサス州北部は別名Pan Handle地方と呼ばれていました。
オクラホマ州とニューメキシコ州に挟まれた突起のように突き出た場所にあり、
見渡すかぎりの大平原が続くことからそう名づけられています。
Panとはフライパンのような平鍋のことで、
つまり平鍋のように平坦な土地の取手の部分という意味です。

しかしボツワナのここはHandleどころか
Panそのものという信じがたい規模の平地が広がっています。
この平地の正体はボツワナの国土の大半を占めるカラハリ砂漠です。
砂漠といっても、灌木すら生えない不毛の大地というわけではなく、
北部では草原が広がり、大陸最大のアフリカゾウの密集地になっています。

12月から始まる雨季は、特に動物たちの活動が活発になると言われていて、
ボツワナのロードサイドでは、「動物注意」の看板を見かける度に、
背中に冷たいものを感じながら走りました。

そう、ここにはゾウはもちろんのことライオンだっているのです。

道行くトラックドライバーは、僕に「朝、夕は特に気をつけろ」と
アドバイスを残して走り去って行きました。

ある日、午後の夕立に遭ってしまい、
仕方なく道端のブッシュで一夜を過ごすこととなりましたが、
雨上がりの闇夜の向こうから、
魔獣の遠吠えのような声が聞こえた時は、
心がこれ以上ないくらい萎縮しました。
ところが朝を迎えてみると、その声の主がロバだったことを知ると、
なんだか少し拍子抜けしたものでした。

明け方に再び走り出すと、
遠くで飛び方の下手なペリカンの声が鳴き渡り、
姿は見えないけれど、確実に何かの野生動物に見られている気配を感じます。
人種も地位も何もかもが意味をなさない、弱肉強食の世界に踏み入っているのです。

そんな平鍋地方の真ん中に、グウェタという村があります。
村の入口にガソリンスタンドがあるだけの小さな小さな村。
それでも肉食獣の心配がない、人の住処だけで本当に安心します。

そのグウェタから4㎞ほど離れた場所に大きなアリ塚があります。
アリ塚には、青い惑星を模した球体が浮かび、こう書かれてありました。
「プラネットバオバブ」と。

アリ塚からさらに1㎞、未舗装路を進むとブッシュの向こうに
バオバブの木が見えてきます。
これが惑星プラネットバオバブの正体です。

名前の通り、周囲には数本、立派なバオバブの木が聳え、
それらを取り囲むように施設が建てられています。
各ロッジとキャンプ場を繋ぐ小道はランタン型の電球が灯り、
ライトアップされたバオバブへと僕を導きます。

レセプションに隣接するバーには
手作りだという電飾やカウンターがセンスよく配され、
オープンエアーの空間に穏やかな風が通り過ぎます。

施設の中心にはプールがあるのですが、
これは日中、泳いで涼を取るだけのものではありません。
夜、バオバブを挟んでプールの対岸に立つと、
もう一つのバオバブが見事に水面に現れるのです!

無数に枝分かれした枝々が印象的なバオバブには、
「悪魔が巨樹を引き抜いて逆さまに突き刺した」
という言い伝えがありますが、
この水面では悪魔が巨樹を引き抜く以前の姿を見てとることが出来るのです。

キャンプサイトはバオバブから100mほど離れた場所にあり、
ここには、レセプションからの光は届かず、
キャンプならではの"闇の濃淡"を感じることの出来る場所になっています。

各サイトには、雨天時や日差しを遮るために茅葺きのハット屋根がついていて、
それらの柱の上に電池の充電が出来る電源盤が目立たないように備え付けられていました。
ここでは屋根も、あったら嬉しい電源盤もさりげない形で提供され、
現代的な使い勝手と、キャンプの非日常が上手くバランスされているように感じました。

交通機関が整っていないアフリカでは、
四駆車やキャンピングカーに乗って旅行するオーバーランダースタイルが主流で、
観光地に行けばオーバーランダー向けのキャンプ場がたいていあります。
そんな彼らや、僕のような自転車旅行者のために、
このあたりのキャンプ場では、電源盤が用意されていますが、
それは手入れのされた芝生に突然ニョキっと飛び出て、無粋極まりません。
屋根があるようなところも、雨が響くトタン屋根や、
頼り甲斐のあり過ぎるコンクリート製だったりと、
有り難いとはいえ、風情も少し足りません。

このキャンプサイトのように、アフリカらしい佇まいを残して、
うまく現代的なファシリティを融合させて行くことは、なかなかに難しいのです。
そして、あれやこれやと便利な設備を付け足していくと、
いつの間にか日常生活と変わらない空間になってしまうこともあります。
何もかも用意されていることは、便利快適かもしれませんが、
それらから程よい距離感というものも存外心地良いものです。

それはこのプラネットバオバブのある土地もそうです。
この広大なパンの真ん中の、さらに集落から離れてもなお、
徹底的にバオバブのロケーションに拘ったからこそ、
この空間は惑星と呼べるような異空間になっているのです。

こんな素敵な場所が、こんなところにあるなんて、思いもよりませんでした。
思いがけない場所で、自分だけの基準で、自分だけのマイプレイスに出会えることは
旅の大きな醍醐味の一つです。

惑星プラネットバオバブは、決して、万人受けする快適さではないけれど、
ここは自分にとって、世界一素敵なキャンプ場と思える場所なのでした。

  • プロフィール 元無印良品の店舗スタッフ

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