各国・各地で 自転車世界1周Found紀行

慎重に備え、大胆に行動する

2014年06月18日

うーむ…うぅーむ…。
ガラス製のショーケースの前を唸りながら行ったり来たり。
光沢を放ち宝石のように並べられているこの自転車用ギアを買おうか、買わまいか…
かれこれ30分以上、頭に世界地図を思い浮かべ、
そろばん代わりに両手を指折り数えながら、お店をウロウロしています。

イスタンブールに着いてからは、今後始まるアジア走行への準備に時間を費やしました。
ここに来る道中すれ違ったサイクリストたちからの話によると、
トルコ以東は中国ぐらいまでは旅行向けの自転車用品が手に入らないとのことで、
市内を駆けまわって、パーツの交換やメンテナンスをしてアジアへ備えていたところです。
ところがトルコは関税がとても高いそうで、
輸入品である自転車パーツは、ものによってなんと日本の3倍ほど。
(ちなみにイスタンブールにはMUJIの店舗もありますが、
日本では100円のノートがこちらでは約500円で売られています…!)

決して安くはない出費は僕の心に重くのしかかってきますが、
しかし今後の中央アジアの灼熱の荒野で、ヒマラヤの山中で、
何かトラブルが起きて立ち往生してしまったら…と考えると
ここでの出費は保険という意味でも妥当な判断としたいところ。
最後は覚悟を決めて店員を呼び、えいやっとショーケースの中のギアを指差しました。

これまでの旅を振り返ってみると、パンクや盗難といった小さなトラブルはあったものの、
ここぞいう場面で致命的なトラブルに巻き込まれた記憶はありません。
それは、耐久性と性能に優れた道具やパーツのおかげであり、
節目となる都市で定期的に道具の点検をしてきたおかげだと思っています。

自転車は見た目よりずっと繊細な乗り物で、
少しワイヤーの張りが変わるだけで変速に影響が出ますし、
ネジ一つ欠けただけでたちまち走行することは不可能になってしまいます。
そもそも自重を含めた100kg以上の荷重を、
二輪のタイヤは、たった指二本分ほどの幅で地面と接しているだけなのですから、
ときどき労ってあげなければ申し訳がたたないところです。

毎日を支える衣服やキャンプ道具にしても同様で、
風雨や痺れるような夜から体を守ってくれてきたのだから、
丁寧に洗って、破けたところはきちんと修繕してあげなければ罰が当たってしまいます。

忘れてはいけないことは、自転車もキャンプ用品もたかが道具だけれど、
この道具たちがあったおかげで
生身の僕では辿り着くことの出来ない景色に巡り会えたということ。
これからも未だ見ぬ風景に立つために道具の力は必要不可欠なのです。
いざという時に壊れないこと、
過酷な状況に置かれた時にこそ最高のパフォーマンスを発揮してくれるものが
自分にとっての良い道具です。

何度かここでも書いていますが、僕の旅は道無き道を行く旅ではなく、
ベースはあくまで現地の暮らしがある生活路を行く旅です。
決して冒険的な要素が強いものではなく、
もし困ったときには、そこに暮らす人々の助けを受けながら進んでいくことも
この旅の醍醐味の一つだと思っています。
ただ、どうしたって誰かの手を借りることは必ずあることなのだから、
その前に現状で出来る限りの備えはした上で、
それでもどうしようもなくなった時に助けを求める、
という姿勢であるべきと僕は思っています。
「なんとかなるさ」「行ってみれば分かる」は
誰かをアテにした無策の言葉としてではなく、
出来る事をやり尽くした後に口にするその土地への期待の言葉でありたい。
そうでなければ、誰かの親切に対し心の底から
「ありがとう」を伝えられないと思うのです。

ただ、生活路を行く旅と言っても、この先の中央アジアは自分の旅の中でも
難易度が高くなりそうな地域です。
ビザによる滞在期限の問題、大陸性気候の過酷な夏、人口過疎地域での補給…。
想像しただけで、頭をもたげるような不安に駆られます。
この感情は日本を出た三年前もそう、アメリカからメキシコに渡るときもそう、
初めてアフリカに渡った時も同じように感じたものでした。
むしろ旅が深まるほどに抱える不安の度合いも広がっていく感すらあります。
勢いだけで何とかなっていた最初の時期を通り過ぎ、
曲がりなりにも世界の光と陰を体感してきたからかもしれません。
でも、不安が大きいほどに期待が高まっていることも事実です。
未だ見ぬ景色にどんな人々が住み、どんな暮らしを送っているのだろう。
期待は膨らむ一方です。

そんな未知への期待や好奇心に応えるために、備えることはきっと必要だと思うのです。
人間、心の何処かで不安を抱えていると現状を楽しみきれない生き物ですから。
自転車の調子が悪くて先を急ぐ羽目になったり、
素敵な出会いをふいにすることがないように。

心の不安を取り除くことができたら、もっと大胆に行動できる。
その為に今は出来うる限り臆病なまでに不安と向き合うことが必要だと思います。
今、備えることに全力を尽くすことが出来たのならば、
きっとこの先の走行にも全力を尽くせるはず。
さぁいよいよアジア大陸横断へ、いざ。

  • プロフィール 元無印良品の店舗スタッフ

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