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美味しいグルジア

2014年08月06日

コーカサス地方の小国グルジアに入ってからというもの、
ヒンカリのことばかり考えています。

ヒンカリとは小籠包のような見た目で
水餃子のように茹でて調理されるグルジア料理のことです。

明らかに中国の影響を感じさせる料理が、
この山に囲まれた小国に定着しているのは、さすがシルクロード。
前々からヒンカリの噂は耳にしてその存在は知っていたのですが、
どういうわけか僕自身、それほど期待は大きくありませんでした。
だから、グルジアに入国して最初の街で入ったレストランでは、
ヒンカリよりも久々に飲めるビールの方が楽しみで、
酒のツマミになるものを、ということで
グルジアの国民食であるヒンカリを注文してみたのでした。

炎天下の下、走ってきたご褒美にビールを喉を鳴らして飲みながら待っていると、
モウモウと湯気を立てたお皿が運ばれてきました。
その湯気の向こう側には、ニンニクのように頭がチョンと突き出た
可愛らしい形のヒンカリがコロンと転がっていました。
用意されたナイフで、皮に切れ目を入れると
ブワッとスープが中から溢れ出てくるではありませんか!
スープをこぼさないようにするのに苦心しつつ、それを口に運ぶと、
肉汁の優しい味わいと牛挽き肉に練りこまれたコリアンダーの
異国情緒を感じさせるエキゾチックな風味とが
噛む度に口のなかで素晴らしいハーモニーを奏でるのです。
それをゴクリと飲み込むと最後に、チリペッパーの鮮烈な辛味が口の中に残り、
ビールを欲するようになるのです。
『ウマい!』
あっという間に五つ六つと平らげてしまいました。

これでビールも込みで締めて5.8ラリ。約340円というお手頃価格です。
グルジア一食目を終えて、レストランを出た時には既に
『どうしてもっと早くこの国に来なかったのだろう』という気持ちでいっぱいでした。

直前にいたトルコ。
トルコ料理は世界三大料理の一つとして知られていますが、
その土地柄ゆえ中央アジアや地中海、中東、東欧料理などに
影響されあってきたという文化的側面だけが評価されているだけでは?
というあまり前向きでない印象が僕の印象です。
実際に味の方はどこの食堂でも平均的で
マズいものはほとんどないのだけど、飛び抜けてウマいものもない、
平たく言うとパンチが足りない味でした。
それでもトルコのパンは世界トップクラスに美味しいし、
大好きなナスをふんだんに使う料理もこれまであまり見かけなかっただけに、
あと一歩、あと一工夫できっともっと美味しくなりそうなのになと、
複雑な思いを感じながら食べていました。

これは個人の好き嫌いですし、選んだ食堂が悪かったのかもしれませんが
僕の食べてきたトルコの大衆食への印象はこんなところです。
こう書き連ねていくと、まるでトルコ料理への恨み節になってしまうのですが、
基本的にショーケースに並べられた出来合いのものがお皿に盛られるので、
注文してから出てくるまでは早いのですが、中途半端に冷めている。
値段も高くご飯とスープだけで400円ぐらいすることも多々で、
量も少ないので泣きっ面に蜂です。
おかずをつけた日にはさらに倍額になってしまうので、
炭水化物は無料でついてくるパンをひたすら頬張り続けたのでした。
おまけに最後はラマダン(断食月)。
戒律の緩いトルコでもラマダンだけはそれなりに真面目に取り組んでいるらしく、
田舎では半分以上のレストランが日中は閉店し、
ますます料理の選択肢はなくなったのでした。
どうやら僕とトルコ料理はあまり相性がよくないようなのでした。

だからグルジアに入って食事に狂喜乱舞したのはある意味必然だったのかもしれません。
値段が安くなって好きなものを好きなだけ食べられる気軽さや
注文してから料理を作ってくれることが、
あぁ僕のために料理をしてくれているんだなぁと感じさせ、ものすごく嬉しいのです。
まだかな、まだかな、と注文した料理に期待して待つ時間、
これだって料理を美味しく感じさせる大事なスパイスの一つです。

シルクロードにありながらキリスト教国家であったり、
近代まで旧ソ連の構成国家であったことなど様々な外部要因に影響され続けてきた
グルジアなので、ヒンカリの具も挽き肉一辺倒ではありません。
餡にチーズやキノコを使ったヒンカリもあり、このあたりのセンスはヨーロッパ風です。

他のグルジア料理もなかなかやり手の持ち主です。
チーズ入りパンのハチャプリの上に卵とバターを乗せたアジャリア風は、
胃袋にガツンと来る食べ応えで自転車乗りには大満足。

イスラム国では食べられない豚肉を食べることが出来るのも嬉しいポイントです。
しかもただ焼いておしまいといった調理じゃなく、
スパイスが効いた串焼き肉の上に生玉ねぎを乗せて、
玉ねぎの爽快さをアクセントにしています。
どの料理をとっても一つ一つにきちんと手がかけられていることに感心してしまいました。
それでいてビールもワインも手頃な値段で注文出来るのだから、
この国での食事時は幸せ以外の何ものでもありません。
毎日毎日が強い向かい風で車の運転もトルコに続いて荒いのですが、
そんなことも笑い飛ばせるほどに、この国の食事は僕に合う。

さて、話は戻ってすっかりハマってしまったヒンカリ。
最初は出てきたナイフとフォークを使って、
どうやって肉汁をこぼさずに食べることが出来るか腐心していたのですが、
何度か食堂に足を運んで、他の人の様子を伺ううちにコツが分かってきました。
先端の突き出た頭の部分、ここは食べるところというよりはつまむような場所で、
ここを手でつまんで食べるとうまく肉汁をこぼさないで食べられるようです。
手でつまんだヒンカリの薄い皮をパクりとすると、
すかさず肉汁が溢れてくるので、そのまま口を離さずにズズっと吸う。
思わず僕の頬は緩んでしまうのです。
日本人なら、これにお醤油を垂らしたくなるところですが、
こっちでは胡椒や、ヨーグルトソースをつけて食べます。
これが意外に合うのです。

とっても美味しいグルジア料理。
旅行の印象を決める大きな要素である"メシ"が決して裏切らない国だから、
それだけでこの国が大好きになれました。

さて、次に予定している国は、カスピ海に面したアゼルバイジャン。
言語的にトルコ語に近いそうで、
アゼルバイジャン人もトルコ人のルーツであるテュルク系と一緒なのだとか。
となるとご飯にあまり期待はしていかない方が良さそうですねぇ…。

  • プロフィール 元無印良品の店舗スタッフ

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