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無印の良心

2015年01月07日

三国志の蜀の舞台となった中国西南部の古都・成都。
四川省の省都でもあるこの街は、麻婆豆腐発祥の地でもあり、
愛嬌ある容姿が心くすぐるパンダに会うことが出来たりと、
ここは僕たちの頭の中に描かれているthat's chinaな土地です。

そんな場所に去る12月12日、無印良品の新しいお店がオープンしました。

お店は街の中心の大慈寺に隣接していて、
三蔵法師にもゆかりのあるこの古いお寺の持つ中国らしい雰囲気を活かした
商業プロジェクトとして再開発されたエリアに位置しています。

全世界でちょうど700店舗目となるお店の面積は
日本の有楽町店に次ぐ750坪の超大型店で、
フルラインナップの商品群を取り揃えました。
また、香港に次いでcafé meal MUJIも併設、
関連子会社であるIDEEの家具も扱うこのお店の位置づけは"世界旗艦店"。
オーダーカーテンや衣料品への刺繍など自分好みに商品を仕立てることも出来、
ここに来れば無印良品の全てが体験出来るお店となっています。

北京や上海、広州など沿岸部には世界的な大都市がひしめく中国ですが、
なぜこの内陸の成都に無印良品の旗艦店をオープンさせたのでしょうか。

『成都は、沿岸部と内陸の格差是正を目指す西部大開発において、
中心拠点の一つであり、近年目覚ましい成長を遂げている都市。
インフラ整備も着実に進んでいて、数年後には高速鉄道も開通し、
沿岸部との土地的な隔たりはますます低くなり、いま最も注目されている街です』
と中国担当となって5年目の堀口さんは言います。

堀口さんが中国に赴任した当初は国内に12店舗ほどしかなかったお店も、
今では120店舗を越える数に上り、
それとともに中国の人たちの価値観も街並みも目まぐるしく変わって来ているのだとか。

『年々、確実に中間所得層が増えていて、
無印良品のブランドや思想が受け入れられる裾野が広がっている手応えがあります。
もともと中国の人たちは長い歴史に培われてきたモノに対する審美眼があるから、
無印良品の良さを知ってもらえるとリピーターになってくれる。
それに、天然繊維に対して強いこだわりをもっているところも
無印良品にとっては追い風なんです』

変わりゆく中国の中で、最も変化が目覚ましい街から
無印良品の思想を発信し根付かせていく、
これが成都に世界旗艦店が生まれた理由だそうです。

四層に別れた店内はフロアごとにテーマがあり、
お店の入口となる一階は、
婦人服や化粧品を扱っていることから木の温もりが溢れる空間に、
紳士服や文房具を扱う二階は廃材をイメージした鉄骨が
印象的な無骨な感じに仕上がっています。
最上階の三階は天窓からの採光を活かし、晴れの日には気持ちの良い光が差し込んで、
食品やカフェのあるフロアにぴったりの清潔感があります。
そして大型家具を展示した地下は、お客様がゆったり家具を試せる広々とした空間です。

オープン前の準備には、日本からやってきたスタッフを始めとして、
韓国や台湾、欧米の世界中のスタッフたちが集合し、
連日連夜遅くまで作業が続けられました。

一度作った売り場も全体観を眺めては、
あぁでもない、こうでもないと壊しては、もう一度作り直す。
最先端の無印良品を表現するために、
みんなでアイデアを出し合って試行錯誤が繰り返されていました。

そしていよいよ迎えたオープン当日には、金井社長も駆けつけ、
『世界で700店舗目となるこのお店から、"感じ良いくらし"を提案していきたい。
お客様だけじゃなく、生産者にとっても環境にとっても優しくありたい
大量生産大量消費によって失われていく地域性や伝統を守っていくために、
我々は土着化した商売をしていきたい』
と寒空の下にも関わらず集まったお客様に挨拶をしました。

挨拶の中で登場した土着化という言葉。
これは無印良品の今後を示す上で大事なキーワードだと感じました。

無印良品の目指す"感じ良いくらし"とは、
欧米的な生活様式をキャッチアップしていくことが、
豊かな暮らしや発展の形ではないというところに起点を置き、
土地の歴史に刻まれた素晴らしい文化や生活様式が存在することを
改めて認め、生活に取り入れていく行為です。
古今東西にこだわらない本当の生活美を磨いていくことは、
消費者としてではなく、生活者としての合理的な暮らしを目指すことで
環境や生産者にとっても優しい豊かな暮らしを実現することです。

そんな発想を具体化したものとしてこのお店では、
中国の伝統家具にヒントを得た明の家具シリーズの先行発売や、
中国に住む少数民族の生地を使ったステーショナリーなどを商品化し
無印良品と地域との土着化を目指しています。

店舗の写真をご覧になってみてください。

店内ディスプレイにも現地の家具を使用しているのですが、
商品の雰囲気を壊すことなくそこにあります。
こんな風に強く主張することなく、そこに溶け込んでいく。
これこそが無印良品の真骨頂です。

何度かここでもお伝えしているように無印良品は、物を売る企業ではありません。
モノを通じてライフスタイルを提案する企業でありブランドです。

『無印といえば文房具!』
『いやいやあのビーズクッションでしょう。』
『キャンプ場まで経営してるの知ってた?』
こんな風に人それぞれに抱く無印良品のイメージが異なることは
決して間違いではありません。
そして、このイメージの揺らぎこそが無印良品が強みだと僕は思っています。

無印良品を無印良品たらしめるモノは物ではなく、
実態のない思想だからこそ、製品に依存すること無く、
人によって自由な解釈が出来るから、
中国を始め今では全世界24ヶ国にものぼる国々の暮らしの中に
溶け込んでいる理由なのではないかと思います。

金井社長やアドバイザリーボードの方々によるテープカットを終え、
いよいよオープンしたお店には、
寒空にも関わらずたくさんのお客様が来店していました。

アロマディフューザーの実演機の香りに足を止める若い女性、
冬物のコートに袖を通している老年の夫婦、
美味しく楽しそうにカフェで食事するカップルは見ているこちらまで幸せになってきます。
老若男女、色んな人がそれぞれの無印良品体験をしていました。

中でも印象的だったのは、衣料品に刺繍を入れたり、
ノートや封筒に自分好みのスタンプを押すことが出来るMUJI YOURSELFのコーナー。

ブースには溢れるほどの人だかりが出来て、
購入した商品を思い思いに自分流に仕上げていました。

ここ成都でも、他の中国の大都市と同様、街を歩けば
買えない物は存在しないというほどに物は溢れていますが、
物を単純に消費していくことに人はどこか疲れているように見えます。
だから製品の出来た背景に納得し、購入した物に何かを付け足すことで
自分だけの新しい購買体験をすることは、とても新鮮に感じたのではないでしょうか。

出来合いのものを買って消費していくところから、
製品を通じて自分だけの購買体験を楽しむという転換は、
新しい生活者像を作り上げていくきっかけになるのではと感じました。

そしてこれは、無印良品がどんな人の心にも入り込める
揺らぎや曖昧さを持っているからこそ、
出来る事であり、使命であるように思いました。

激動の変遷を辿る中国。
過熱する経済は使い捨てが当たり前の消費社会を加速させ、格差を生み、
前例のない環境破壊も引き起こしています。
この迷宮の出口はどこにあるのかは誰にも分かりません。
そんな世の中にあって無印良品は、数ある正解の中の
一つの良心として無印良品はこの国に、生活者の心の中に
在り続けて欲しいと僕は思います。

最後に、無印良品の企業ビジョンにはこんな一節があるので、
これを紹介して終わりにしたいと思います。

"「良品」には、あらかじめ用意された正解はない。
しかし、自ら問いかければ、無限の可能性が見えてくる。"

世界旗艦店・無印良品成都太古里。
悠久の歴史の香る古都・四川省は成都にてお待ちしております。

  • プロフィール 元無印良品の店舗スタッフ

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