各国・各地で 自転車世界1周Found紀行

南国の気心

2015年01月21日

年末年始はユーラシア大陸の旅をいったんお休みにして
雲南省の省都・昆明から飛行機に乗って、台湾にやって来ました。
日本から友人がやって来るので一緒に台湾を縦断することにしたのです。
(ちなみに友人の彼はなんと一輪車での挑戦です…!)

台湾とは、20世紀前半の中国における国民党と共産党による内戦の結果、
敗戦した国民党が台湾島に逃げ込む形で存在する地域で正式名称は中華民国です。
大陸側の中華人民共和国と、中国の領有権を巡る争いは今も続いていて
中華人民共和国と国交を結ぶ諸外国の多くは日本を含めて
台湾を国として認めていません。

その台湾では目下、自転車旅が大ブームです。
もともと、世界的シェアを誇る自転車メーカーが存在している背景に加え、
何年か前に失恋をした青年が台湾を一周するロードムービーがヒットしたそうで、
台湾の人々にとって自転車は最も身近なアクティビティとしてあります。
実際に道を走っていると、スポーティな自転車ウェアに身を包んだ自転車乗りや、
ちょっとそこまでのお手軽さん、僕と同じように大荷物を積んだ自転車野郎まで
それぞれのスタイルでサイクリングを楽しむ様子に出会いました。

たぶん、台湾島のサイズ感がいいのだと思います。
縦断で約500km、一周で1000kmちょっとという距離は、
気合を入れれば週末ライドで、
のんびり走れば一ヶ月程かけることが出来る大きさです。
自転車のスタイルに合わせた日程で
縦断や一周という分かりやすい達成感を得られることが
人気の秘密なのではないかと思います。

いざ走り出して見ると交通量の割に交通マナーはよく感じられ、
ドライバーは路上に自転車は存在するものと認識して運転してくれる。
自転車道の整備もよくされていて、
何よりあの忌々しいクラクションが全く聞こえなくなったことに心底ホッとしました。

人々は僕達のいい加減な中国語にも耳を傾けてくれ、
彼らの言葉が分からない時も、身振り手振りを交えて一生懸命説明してくれ、
時には手を引いて案内してくれました。
中国では、僕が外国人であると分かると、
まるで未知の生物に出会ったかのような扱いだっただけに
このギャップには驚いてしまいました。

何だかこう書き連ねていくと、まるで中国に恨みがあるかのような
陰口だらけになってしまっているのですが、
それでも中国に入ってからというのも旅の楽しみが盛り下がっていたことも事実。
VISAの問題だったり、外国人の泊まれるホテルが少なかったりと
制度的な問題による理由も大きかったのですが、
自分を含めて同じような顔立ちの人々に囲まれるとその中に埋没されがちで、
これまでのように大荷物を抱えた東洋人として注目を浴びたり、
声をかけてもらう機会はほとんどなくなっていました。
でも、それはそれで仕方のないことだと割り切る以外に
状況を消化する方法を見つけることは出来ませんでした。

だから、台湾でもきっと同じく"大勢の中の一人"として
淡々と走ることになるのだろうな、と思っていました。
ましてや自転車ブームなら尚更のこと。
ところが、実際にはこれまで訪れた国の中でも
なかなか比較出来ないほどの熱烈な歓迎が待っていたのだから分からないものです。

追い越しざまの車から身を乗り出して「加油(がんばって)」
と声をかけてくれる人の多いこと多いこと。
宿でも自転車を部屋に入れたいと言うと快諾してくれ、
出発時には水の入ったペットボトルと季節のフルーツを手渡されることもしばしばでした。
夕ごはんを求めて彷徨う夜の街歩きでも、
ふらりと入った食堂のおばさんはニッコリと僕らを迎えてくれました。

ある時、信号の先で待っていた親子におにぎりの差し入れを貰いました。
それだけでも嬉しいのに、驚いたのは手渡されたビニール袋に
マジックで"加油"と書いてあったこと。
たぶん思いつきじゃなく、
信号よりもずっと前に僕らを見かけて準備してくれていたのでしょう。
その様子を思うと、胸がいっぱいになる思いでした。

走って、食べて、寝る。
単純なデイサイクルが彼らによって楽しいものに彩られていくのです。
台湾に来てからというもの、日に日に旅の楽しさが蘇ってくるのが分かります。
やっぱり旅はこうでなくっちゃ。

台湾の人々の染み入るような優しさはどこからやってくるのでしょうか。
きっとこの土地の気候がそうさせているのだろうなと思いました。

これまでの経験を振り返ってざっくり大別すると
暑いところはのらくらで、寒いところは締まりがある、
と分けることが出来るように思います。

年中暑いと集中力を持続させることは難しい、
けれどバナナやマンゴーといった熱帯性作物があるので
贅沢を言わなければ食べていくことも出来る。
対して寒さが厳しい土地では、
身なりをしっかりしなければ寒さに耐えることは出来ないし、
来る冬に備えて食料を蓄えていかなければならない。

気候環境によって、人の行動パターンはある程度導かれていきます。
ひいては土地の人柄にまで影響を与えていくのではないかと思います。

台湾は石垣島のある八重山諸島にも程近く、常夏と連想されがちな土地柄ですが、
北部は温帯に属し、日本ほどではないにせよコートはこの時期必須の寒さです。
北回帰線を挟んだ南部は熱帯に属しますが、それでも肌寒さを感じさせます。
夏場は本当に暑いそうですが、その暑さが年中続くわけではないから
南国特有のゆるさと、温帯の穏やかさが程よくブレンドされた、
まろやかで優しい雰囲気が醸成されているのではないかと感じました。
日本と同じく毎年台風の脅威にさらされる気候も、
災害に備える堅実な人柄へと影響しているのだと思います。

日本まで眼と鼻の先にある台湾。
こんな身近に走っていて幸せを感じることが
出来る場所があるとは思いもしませんでした。
今年もまだまだハードな地域が残っているし、年始ぐらいは、
このゆるく流れる島時間に身を任せるのも悪くないな、と思いました。

  • プロフィール 元無印良品の店舗スタッフ

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