各国・各地で 自転車世界1周Found紀行

適正価格とぼったくり

2015年02月25日

ベトナムの通貨は全種類にホーチミンの肖像画が描かれたベトナムドン。
2015年2月のレートでだいたい10,000ドン≠55円。
このベトナムドンがまぁそれはそれはややこしいのです。

まず、とにかく桁が多いこと。
近年はだいぶ安定しているようですが、数年前まで高いインフレ率を記録していました。
そのせいもあってか、食堂や商店では小額紙幣を信用していないようで
基本単位は5,000ドンや10,000ドンでやりとりされます。
日本円に換算して考えてみると、モノの値段の単位が27円刻みで推移するのです。
もちろんきちんと1,000ドン単位で計算してくれる良心的なお店もあるのですが、
例えば一つなら3000ドンで買えたはずのモノも、3つまとめて買うとどういうわけか
お会計は10,000ドンになってしまうのです。
店主のさじ加減一つで値段が跳ね上がってしまうのだから、
どんぶり勘定と言わずしてなんと言いましょう。

次に、紙幣のデザイン。
ホーチミンがベトナムを語る上で偉大な人物であることは分かるのですが、
紙幣のデザインがあまりにも似すぎているのです。
特に10,000ドンと200,000ドンは同じ赤系の紙幣で、
10,000ドンを払うつもりが、
うっかりと200,000ドンを渡しかけてしまうことがありました。
いや、思ったより財布の減りが早い日があったので、うっかりしていたのかもしれません。
どれぐらい似ているのか、写真でご紹介したいところなのですが、
申し訳ございません、こちらもうっかりしていたようで、
ベトナム紙幣を撮った写真が一枚もありませんでした。

ベトナムの人たちは皆、どこへ行っても親切で気さくなのですが、
こと商売に関わる人となると様相が変わってきます。
ベトナム人はアジアで一番お金にきたな…もとい商売熱心であると言われていて、
彼らからモノを買ったり、食べた食事を精算したりするのは少し骨が折れます。

例えば炒飯を一つ注文しようとしても、あるお店では30,000ドン、
隣のお店では50,000ドン、向かいのお店では25,000ドンと
値段の相場に大きな開きがあるのです。
言葉が不自由で写真付きのメニューもない以上、
それぞれにどんな違いがあるかは想像の域を出ませんが恐らく似たようなものでしょう。
さて、ここで何がこの値段の違いを生んでいるのかといえば、
これがベトナム名物ボッタクリなのです。

"南米は殺して盗る、アジアでは騙して盗る"なんて例え話がありますが、
ベトナムではモノを買う、ご飯を食べる、バイクタクシーで移動するといった
旅行に関わるほとんどの場面で、
ボッタクリとの戦いに遭遇するので、なかなか気が抜けません。

ちなみに先週のブログに掲載した僕のかぶっているベトナム帽、
とぼけた円筒形が可愛い麦わらのノンラーですが、
あれを僕はそこそこの値段(恥ずかしくて言えません)で買いました。
思ったより少し高いなとは思ったのですが、周りに居合わせた男たちも
それが適正価格だぞ!とこぞって言うので、そんなものかと思ったのですが、
後で僕は相場の倍以上のお金を出していたことを知り、がっくりとうなだれたものです。
どうりであのおばさんはニコニコ笑って僕に帽子を被せてくれたわけです。

この件があったのは、周りには何もないのどかな田舎の商店です。
ベトナムの恐ろしいところは、どんな小さな街であっても
油断していると平然とぼったくってくるところ。
(もちろん田舎ほどにその確率は下がりますが)
人で選ぼうにも、徳が顔に溢れ出たような人であっても、
ギョッとするような金額を言ってくるので思わず二度聞きしてしまうこともあります。
とはいってもあからさまに一桁多く言ってきたり、
ちょっと間が空いて、今まさに頭の中で値段を考えている人もいたりして
これはこれでクスリと笑えてしまいます。

幸いにして、宿に関してはどこへ行っても紋切り型のように同じ値段でしたが
設備の整った綺麗な宿も、くたびれてシーツも交換されていないような宿まで
同じ値段なのは、これはこれで考えものだったりしますけれど。

だからベトナムではモノの相場を知っておかなければ、
きっとエラい目にあってしまうことでしょう。
僕の場合はハノイでお世話になった人たちから、
だいたいの相場を教えてもらう機会があったので、これ以後は
あぁこれはぼったくってるな、これは適正だなと判別することが出来ました。
そして、興味が湧いたのでもうひとつの質問を彼らに訊ねてみました。
『まさか、ベトナム人もぼったくられることはあるの?』
「あぁ、ときどきあるよ」

日常的にぼったくりが行われているベトナム。
モノを買う際にそれが高いか安いかは買い手が相場価格と照らしあわせてみて
損得計算するのだと思いますが、ひとつ気をつけなければいけないことが
相場とはあくまで相場であって決して定価ではないということ。
定価とは原料調達や商品の輸送など
買い手の手元に届くまでのプロセスが安定的に供給されてこそ
実現する価格だと僕は考えます。
飛躍的な経済発展を遂げるベトナムといえど、停電や渋滞は日常茶飯事、
星の数ほどある商店も玉石混交で、
人気のないお店では期限の切れた商品がホコリをかぶって売られているのだから
まだまだ定価の存在する世界ではありません。
これは何もベトナムに限ってでなく、定価がある世界とは
案外、世界で見たらごく一部でしかないのです。
"安く仕入れて、高く売る"を地で行くベトナムの商人たちは
実は商売の原則に忠実なのかもしれません。

それにぼったくりの見方を変えれば価格の弾力性が高いと言い換えることが出来ます。
ちゃんと相場価格を知っていれば、
交渉次第でそれよりも安い値段でモノを買える可能性だってあるのです。
いくつかモノを組み合わせて、
例えば17000ドンや16,000ドンなどキリが悪い数字の場合は、
15,000ね? と先手を打てば、交渉はけっこう上手くいったりします。
これが後手に回ると20,000ドンと言われてしまうので、
電光石火で攻め手に回らなくてはいけません。

さて、この日は国道一号線沿いに宿を取ったのですが、
ここはトラックドライバー向けの宿のようで
近くにはあまりお店も食堂も見当たりません。
夕食を求めてウロウロとしていると、
一軒だけやっている食堂のおじさんが手招きして僕を呼び込みます。
『ご飯ある?』
彼はあるとうなずきました。
ただ、値段を聞いても、いいから座れとしか言いません。
あぁこれはぼったくられるんだろうなぁと思いつつも、
他に選択肢もなかったので、仕方なしに米とチキンを頼み食事を待っていると
ご飯とチキンの他にスープにおひたし、サラダと
頼んでもいないものが次々と運ばれてきます。
『頼んでないよ!』
おじさんは聞く耳を持ちません。
結局注文したもの以外の料理には手を付けないようにして食事をしたのですが、
お会計で恐る恐るいくら? と聞いてみると、
彼はニンマリと「はい、100,000ドンね」と答えました。
あのね、おじさんそれはもうぼったくりどころか詐欺とか押し売りって言うんだよ…

  • プロフィール 元無印良品の店舗スタッフ

最新の記事一覧

カテゴリー一覧