各国・各地で 自転車世界1周Found紀行

続・地球の凹凸

2015年11月25日

モンゴルと大草原。
この二つの言葉は、多くの人の頭の中で
密接な関係性で繋がっているキーワードではないでしょうか。
モンゴルと聞けば馬に跨った遊牧民が草原を疾駆する姿が頭の中に浮かび、
大草原のある国は? と問われれば十中八九モンゴルと答える人が多いでしょう。
実際にモンゴルには無窮なる大草原が広がっています。

一方でこの国には4374mのフィティン山を筆頭に、
富士山よりも遥かに大きい4000m級の山々があることは
ここにやってくるまで僕もついぞ知りませんでした。
蒙・中・露、そしてカザフスタンに跨るアルタイ山脈の麓には
鷲を操って狩りをする伝統的なカザフ族も暮らしているそうです。
また南東部では黄砂の巻き上がるゴビ砂漠も大きく国土を占めていて、
北部はシベリアに連なる針葉樹林帯のタイガが広がっています。
ひとくくりに大草原の国とは言い切れない多様性をこの国は抱えているのでした。

その大草原にしてもいざ自転車を転がしてみると、
大草原と大平原は似ているようで全く違うことに気付かされます。
平坦な道を走っているはずなのになかなかスピードが思うように上がらない。
そうかと思えば羽が生えたかのような軽快さでペダルが回ることがある。
流れる景色と体感するスピード感のギャップの正体はなんてことはなくて、
上り坂だったり下り坂だったりしたわけなのですが、
モンゴルの圧倒的広大な一望千里の空間が僕の平衡感覚を狂わせていたのです。

来た道を振り返ると、今朝出発した街が見えなるところまで走ってきたかと思えば、
次の瞬間にはまた再び遠くにうっすらと現れたり。
僅かな傾きだけれど絶え間ないアップダウンが繰り返される土地が
モンゴルの大草原でした。

またある時、地平の向こうに見えた岩石地帯に近づいてみると、
それは羊の群れであったということもありました。
何だか一杯食わされたような気分ですが、
羊に限らずラクダや馬、ヤクや牛などの家畜がつける
この大地の模様が今の僕にとってどれほど心強いものか。
家畜たちから目を離して辺りをぐるり見渡すと、やっぱりゲルがありました。
ここに生きる生命さえも、この土地の起伏を形成する要素であったのです。

それにこの国では丘や峠にはオボーという標柱が必ず建てられていて、
これはラマ教に由来する祭壇の一つと言われていますが、
現実的には丘の頂上を示す道標のような意味合いを持ち、これが結構な数であります。
だからこのオボーの存在は、この国が広大な国土に隠された丘だらけの国である
ということを裏付ける指標であったりもするのです。

結局のところこのモンゴルにさえ完璧な地平線も大平原も存在しない。
大地そのものや、そこに生きる生命の活動が地球に凹凸をつけている。
丸いと教わったはずの地球は旅をする程に、走り続ける程に、
起伏に富み、うねりに満ちた惑星だということを思い知らされてゆくのです。

世界中の山を削り、橋を架け、あるいは温暖化によって南極の氷が溶けつつある今、
地球は平らで丸くあるべきとしているのは僕たちの行動のせいなのかもしれません。
真実の地球は歪な球体だった。
でもその歪さこそが地球の美しさなのだと僕は最近分かり始めた気がしています。

中国国境まであと僅かの距離までやってきたモンゴル東部の草原地帯。
辺りは時期が時期だけに一面褐色に染め上げられていますが、
夏の季節には鮮やかな緑の絨毯が敷かれていたであろうことは想像に難くありません。

後戻りは不可能な凄まじい西風に背中を押され
ぐいぐいと荒野を突き進んでいたある時、一本の立木に出会いました。
普段なら見過ごしてしまうただの立木もここでは特別目立つ存在で、
最後に木を目にしたのはいったい何日前だったろうと木に近づいてみると、
一羽の鳥が木の枝から飛び出しました。
動物には疎い自分だから鳥の名前は分かりません。
突然現れた僕に脅いて飛び出してしまったのでしょう。
飛び立った鳥のいた場所に目を凝らしてみると
そこには木の枝と草でこしらえられた巣があることに気が付きました。

どうしてこんなところに…。
そう思った僕でしたが、自転車を止めて巣の下まで行ってみると合点がいきました。
巣は僅かにうねる周囲の丘によって完璧に風が遮られていたのです。
そこでしか育たない木に、そこでしか育むことが出来ない命。
胸の奥から熱いものがこみ上げてきたと同時に、
この歪な地球の懐の深さに触れた思いでした。

地球を一周する旅も気が付けば70000kmを超える旅となりました。
走れば走る程に40000kmと教わったはずの地球の周径からは
かけ離れていくわけですが、
きっとそれだけこの星は山があり谷があり道は曲がりくねっていたのでしょう。
丸いはずだった地球にまつわる壮大な矛盾。
地球の凹凸を解き明かす旅は続いていきます。

  • プロフィール 元無印良品の店舗スタッフ

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