仕事は創りだすもの
秋田県南部に、「日本一美しい星空」の村があると聞いて、訪れました。
栗駒山系の山々に抱かれた東成瀬村には、
豊かな森林と水環境に恵まれた生活空間が残っています。
あてもなく、たまたま見付けた宿へ入ると、
陽気なお母さんと、優しいお父さんが迎えてくれました。
残念ながら、夜空は雲に覆われてしまい、
星空を拝むことはできませんでしたが、
代わりにご夫婦に様々なことを教えていただけることに。
実はこの宿、「わらび園」も営んでおり、
家の裏には、広大なわらび畑が広がっていました。
山菜前線を追いかけるように北上している私たち。
もちろん、わらびも一緒に収穫させていただきました。
手で簡単に折れるため、素人の私たちも簡単に収穫でき、
この時期でも、この通り豊作です。
その食感は本当に柔らかく、絶妙の粘り気がありました。
今ではその噂が広まり、観光バスも停まるほどの
有名わらび園となっているようです。
さらに、このわらび園では、雪解けからお盆の時期までのあいだ、
同じ畑から4~5回は収穫できるんだそう。
その美味しさと、発育の良さの秘訣は一体?
お父さんに伺うと、
「この木酢液がええんと思うんじゃ」
と教えてくれました。
木酢液とは、
木炭を生産する際に生じる煙を空冷し、その水滴を採取したもの。
赤褐色の液体で、独特の燻臭があります。
植物の生長促進をはじめ、土壌の消毒・殺菌、防虫、防腐、除草、脱臭など、
様々な効果を持つ木の恵みです。
しかし、現在は限られた炭窯でしか生産されておらず、
大変、貴重なものになっています。
その流通量の少なさから、
一般に農業用に利用するには、費用が高すぎるようです。
ただ、このわらび園で、その心配は無用でした。
冬場に炭づくりを仕事にされており、
自前の木酢液を持ち合わせているため、
それをわらび園にも利用しているというわけです。
裏庭には、炭を焼く窯小屋がありました。
こちらの炭小屋では、白炭を作っており、
その炭は、競馬場の蹄鉄づくりのために納めています。
冬の炭づくりでできた「木酢液」を、春~夏のわらび園で活かし、
収穫したわらびは、一年通じて運営する民宿で提供する。
全てが理に適っており、充実した生活を送っているように見えるご夫妻ですが、
これらは全て、自分たちの代で始められた事業のようです。
元々は農業をされていたようですが、
人と違うことをやらなくては未来は拓けない、と、
与えられた環境を活かし、これらの事業を始められました。
何を始めるにも、初めは周囲から笑われたそうですが、
今では、周りから羨まれるほどだそう。
「仕事は創りだすもの。黙ってても何も始まらんよ。
今の若者にもそう訴えたい」
額に深く刻まれた皺をくしゃくしゃにしながら語るお父さんの言葉には、
とても説得力がありました。
今ある環境を活かしながらも、それに甘んじることなく、
自分の信じた道を貫き、実践する。
ここにも一つ、これからの時代へのヒントが眠っていました。