そこにしかない魅力
なまはげ文化の残る男鹿半島の先端、入道崎。
北緯40度線に位置するこの岬の先には、
ニューヨーク、マドリード、北京などがあるそうです。
この地で、この先の秋田での旅路を左右する、
偶然の出会いが待ち受けていました。
「MUJIキャラバン隊の方ですか?」
ソフトクリームを食べる男性に、ふと声を掛けられます。
「そうです! どうして、分かったんですか?」
「車のロゴを見まして。スゴい、まさか男鹿でお会いできるなんて 」
男鹿半島でカフェを営んでいるという猿田さん。
その日は定休日で、男鹿に来ていた友人を案内してきたところだったそうです。
「せっかくなんで、うちのカフェに寄っていきませんか?」
お言葉に甘えて、お邪魔したのは
田んぼに囲まれた里山のカフェ『ににぎ』。
古い実家を活かした空間には、
とてもゆったりとした時間が流れていました。
中には、無印良品の家具も!
4月にオープンしたばかりで、まだ試行錯誤中ということでしたが、
そのしつらえはどこか落ち着きます。
一人暮らしの母親を想い、東京から男鹿に帰郷したのが約5年前。
「もともと、カフェなんて少ない男鹿半島。
こうした古い建屋を活かせば、懐かしいと感じてくれる
お客さんもいるのではないかと思いまして」
その狙い通り、今となっては老若男女問わず、
足を運んでくれているようです。
今年からは、年末の恒例の民族行事でなまはげ役にも抜擢され、
猿田さんは男鹿のための活動の一歩を踏み始めています。
「伝統を新しい形で表現しているといえば、
秋田市に良い方がいらっしゃいますよ」
そうご紹介いただいたのは、
秋田の『casane tsumugu』の田宮さん。
秋田を起点に、この地域に既にあるモノ・ヒト・コトの普遍的な魅力を見つめ直し、
角度や形を変えながら、内外に発信する事業を進めていらっしゃる方です。
現在、進めているのが『WAPPA Project』。
わっぱとは、秋田県が誇る伝統工芸品『大館曲げわっぱ』の略称で、
樹齢200年以上の天然秋田杉を使った曲げ細工です。
数ある曲げ細工の中でも、唯一、
国の伝統工芸品の指定を受けています。
この素晴らしい伝統工芸の技術を活かしながら、
今の生活に寄りそう暮らしの道具が作れないかと考えられたのが、
「ピンバッジ」、「壁掛け時計」、「ルームミラー」。
どれも、もっと身近なところに秋田杉を感じられるようにと、
現代の生活スタイル向けにアレンジされた商品です。
(※現在、商品化されているのはピンバッジのみ)
大学進学を機に上京し、駅ビル開発の仕事を手掛けながら、
「なぜどこにでも同じようなモノを作るのか?
もっと、そこにしかない魅力を出していくべき」
と考えるようになっていった田宮さん。
いつかは故郷、秋田のために地域振興の活動をすることを決めていたそうです。
2009年末に帰郷を果たした田宮さんは、
大館を中心に活動している「ゼロダテ(0/DATE)」と出逢います。
「ゼロダテ(0/DATE」とは、
大館出身のアーティストやクリエイターが中心となり、
街づくりをゼロリセットして考えることを目的に、
2007年から活動を開始したアートプロジェクト。
今や県の緊急雇用事業としても認定を受け、
県内外から若手を中心に人が集まり、
北秋田の魅力を再確認、発信する活動に取り組んでいます。
その「ゼロダテ(0/DATE」とデザイン・製作会社も加わり、
曲げわっぱを活用した新たな商品開発に取り組んでいるわけです。
「それぞれの地で、長い年月をかけて、自然や人によって築き上げられた
地域や場所、人に宿る、有形無形の固有の資産。
それらを次の時代へと循環させていく、
メビウスの輪のようにつなげる仕掛けを講じたい」
そう話す田宮さんは今年36歳。
この中間世代の果たしうる役割というのは、
とても大きいのではと感じさせる言葉でした。
人にも個性があるように、地域にも個性があるもの。
そこにある魅力が、これからも残っていきますように
。