和紙の可能性
スラリとしたスタイル、キリッとしたまなざし、
物腰柔らかい話し方。
ただ者じゃないオーラを放つその方は、
愛媛県西予(せいよ)市に和紙工房を構える「りくう」の佐藤友佳理さん。
ロンドンでモデル活動後、東京でデザインの勉強を経て、
五十崎(いかざき)和紙発展のために帰郷し活動。
その後、工房を西予市に移して和紙作りに取り組まれています。
「私、中学校の時に、お祭のポスターのコンクールで金賞を取ったことがあって、
その時に和紙でできた十二単を着させてもらったんです。
たぶん、その時から和紙に携わる運命になっていたのだと思います」
そう振り返られる佐藤さんの地元の小学校では、今でも、
自分で漉いた和紙を卒業証書にして渡してもらうんだそう。
その後、モデル活動中に過ごしたロンドンで、
自国のアイデンティティを強く持つ外国人と接するなか、
自分の軸を持ちたい、と思うようになっていった佐藤さん。
一風変わった経歴のように感じましたが、
こうした道を歩まれているのも自然の流れかもしれません。
そんな佐藤さんが作る和紙を一目見て驚きました。
まるで幾何学模様を思わせるような形状。
今まで見てきた和紙は、原料となる楮(こうぞ)の繊維が密に絡み合い、
一枚の紙としての機能を果たすものがほとんどでしたが、
これはその概念を全く覆すものでした。
その名も「呼吸する和紙」。
原料は通常の和紙と同じ楮なのですが、
そこに"ゼオライト"という、結晶構造中に大きな空隙を持つ物質が溶け込み、
湿度調節や消臭機能を有しているとのことなのです。
また、そのモダンな表情ゆえに、趣ある日本家屋にも
現代の住まいにも見事にマッチします。
まさにこれこそが佐藤さんの狙い。
「和紙の持つ可能性の幅を広げたかったんです。
素材は日本の風土に合っているのだから、
デザインももっと今の生活に合うように、と」
その作りは、細くよられた和紙と綿の糸を交互に張り巡らせた土台に、
楮の繊維が軽やかに絡みつき、自然な形で濃淡が生み出されています。
「うちの和紙は漉くというよりも、すくっている感じ。
私、伝統的な和紙の技法を学んだわけじゃなくって」
そう、佐藤さんの和紙づくりは全くのオリジナル。
今まで見てきた和紙づくりでは、
簀桁(すけた)を揺すりながら均一に繊維をならしていっていましたが、
佐藤さんのやり方は、糸で張り巡らされた土台を、
ゼオライト楮が溶け込んだ水に沈めて、すっとすくい出します。
すると、糸の土台が楮の繊維を淡くまとって出てくるのです。
この土台を作るのはお母様の仕事。
まるで熟練の職人のように、一つひとつ丹精込めて編みあげていきます。
こうして母と娘の協働により生み出されたものは「和紙モビール」です。
「情緒に触れるものを作りたいと思っています。
仕事で疲れた時とか、このモビールを眺めて疲れを癒してほしい」
確かに、佐藤さんの作る和紙を眺めていると、
不思議と感傷的な気分に浸れます。
なかにはこんなものまで。
子供向けの「愛媛県から湧き水で漉いた和紙のボール」と名付けられていました。
"和紙は触ってはいけないもの"ではなく、良いものだからこそ小さいうちから
どんどん触って、肌で指でその繊細さやあたたかさを感じてほしい、
というメッセージが込められています。
明らかに和紙の可能性を広げていっている佐藤さんですが、
こうした新しいスタイルを進むことに、不安を感じていたこともあるそう。
ただ、周囲の方のエールがあって今があるといいます。
「どの分野においても、いろいろな人が様々なスタイルを追求していくこと。
そこには伝統的なスタイルも、革新的なスタイルもあっていい。
そうすることで、業界全体の底上げにつながっていけばと思っています」
未来をしっかりと見据えたような視線の佐藤さんは、
紛れもなく和紙業界に新しい風を吹き込んでいます。