今治タオル
愛媛県今治市(いまばりし)は言わずと知れた、タオルの生産地で、
全国のタオルの60%以上が今治で作られています。
その温暖な気候から、江戸時代より綿栽培が盛んだった今治では、
農家の副業として生産し始めた「伊予木綿(いよもめん)」が全国的に広がりを見せ、
綿織物の一大産地として知られるようになります。
しかし、明治時代になると、他の産地からの安価な木綿製品に押され徐々に衰退。
今度は、伊予木綿に代わる織物として
「綿ネル(片面だけ毛羽立たせた丈夫な綿織物)」を生み出します。
その後、大阪で生産が始まっていたタオルに可能性を感じ、
綿ネル機を改良してタオル織機としたことが、今治でのタオル生産の始まり。
今治が京阪神という大市場に近く、海洋航路が整っていたことも、
タオル産業の発展に寄与したといえます
(ちなみに、今治は造船の町としても知られています)。
さて、そんな長い歴史を持つ今治のタオルですが、安価な海外産の台頭により、
15年ほど前まで560社ほどあったメーカーが、
数年前には約100社まで減少してしまいました。
「今治タオルは分業制で成り立っているので、
タオルメーカーが100社を切ったらさすがに業界全体がマズイ
」
生産者の一人、山田素裕(もとひろ)さんは当時を振り返ります。
窮地に立たされた今治のタオル業界 。
2006年に、組合の青年部が中心になって話し合い、
「今治タオルプロジェクト」を始動します。
タオルの魅力の抽出から始め、本当に価値あるものを提供していこうと、
独自の品質基準を設け、再スタートを切ることになりました。
みなさんもどこかで目にしたことがあるかもしれない、こちらのロゴ、
これはその厳しい品質基準に合格したタオル商品のみに表示されるマークなのです。
何よりもまず大事にしているのが、タオルの最大の役割である「水を吸うこと」、
そこには驚きの"5秒ルール"が制定されていました。
今治タオルの品質として、1Lの水が入ったビーカーに、
1cm角の試験片(タオル)を浮かべて、
5秒以内に沈み始めたらOKというものです。
また、小さな子どもから大人まで、あらゆる人に安心して使ってもらえるように、
高い安全基準を設けるほか、全11の基準により、品質を守っているそうです。
ところで、そもそもタオルとは、よこ糸を織り込む際に、
たて糸の一部(パイル糸)を緩めて布地にループ状の部分を形成した布のことで、
その織式はひとつなんだとか。
山田さんが白板に断面図を書いて説明してくださいました。
なんだか、繊維学校にでも体験入学した気分です♪
「布の場合、それ自体は素材ですが、タオルの場合、それ自体が商品なので、
そこにどんな想いを詰め込むか、どう味つけするか。
消費者の価値観が多様化している社会において、
作り手としては需要が多い分、挑戦のしがいがありますよ」
どんな糸を使うか、どんな機械を使うか、どんな後加工をするかなどに
それぞれ生産者の個性が表れるといいます。
例えば、通常は綿花の繊維をねじって1本の糸にして使うのですが、
無撚糸(むねんし)という繊維をねじらない糸を使うと、
ふんわりとしたやわらかな仕上がりに。
また、裏面をガーゼで仕上げたものは、
薄手で軽く、洗濯後の乾きが早いという特徴があります。
「ここまで独自の進化をとげてきたのは、
使う人の立場になってものづくりができる、日本人の感性ならでは」
そう話す山田さんは、実は無印良品のタオルハンカチの生産も担っています。
高速・中速・低速と3つのスピードがある織機のうち、
無印良品のタオルハンカチは低速の"シャトル織機"と呼ばれる機械で作られていました。
効率が悪いので、この機械をいまだに所有している人は数少ないなか、
山田さんは大事に大事にシャトル織機を使い続けてきたそう。
それは、ゆっくり織ると、風合いや手触りがよく仕上がるから。
また、後加工に使っている水は、西日本最高峰である石鎚山(いしづちやま)の伏流水で、
極めて重金属が少なく硬度も低い軟水。
こうした水質が、糸や生地の白度や発色、やわらかさと大きく関係しています。
「このタオルを使ってよかったなぁと思ってもらえるように、日々挑戦しています。
『人生て"人間"になる道やなぁ』って思っていれば、
失敗しても楽やし、分からないことを人に聞くのも楽」
価格では海外産のものに勝てなくても、
その品質と挑戦し続ける姿勢で、国内はもとより、
世界でもその存在を認められるようになった今治タオル。
そこには、業界の生き残りをかけて新たな行動をとった生産者たちの団結と想い、
そして、ひとつのものを追求していく
日本人のものづくりへの執念が込められていました。