昔ながらのレトルト食品
日本一周の道中、愛媛で立ち寄らせてもらった
西予市明浜町にある「無茶々園(むちゃちゃえん)」。
今から約40年前、
できるだけ農薬や化学肥料に頼らないみかんづくりをしていこうと、
立ち上がった生産者団体です。
そのネーミングは、無農薬・無化学肥料なんて無茶といわれた当時、
とにかく無茶苦茶がんばってみようと、名付けられたものでした。
環境にやさしいみかんづくりは、特色ある地域づくりにもつながり、
現在では、全国からIターンの若者が集まり、有機農業に取り組んでいます。
その若者のチームが、「ファーマーズユニオン天歩塾(てんぽじゅく)」です。
てんぽとは、この地方の方言で"無茶"を表し、
「てんぽなことすんな~」といえば「無茶なことしてんな~」という意味だそう。
そんな無茶々園の遺伝子を引き継ぐ天歩塾のリーダーに、
今回愛媛を再訪した際に、お会いすることができました。
村上尚樹さんは、石川県出身の32歳。
昔、バイクで全国を旅して巡るなか、
たどり着いたのが、ここ明浜町のくらし方でした。
「ここの気候風土、そして人々の距離感が心地よかったんです」
学生時代、大阪のテレビ局でアルバイトをしていた村上さんにとって、
仕事とくらしが表裏一体の明浜町のくらし方は、新鮮に映ったそう。
そして、しばらくこの地でくらしているうちに、
「こんな生き方もありかな」と思うようになったといいます。
「なんせ、ここの環境は"原始の工場"なんですよ」
村上さんがいう環境とは、この入り組んだ地形のこと。
宇和海に面し、さえぎるもののない丘陵地には、
陽が沈むまで太陽の光が注ぎ込みます。
そして、海からこんもりと隆起した山に囲まれているため、
ミネラルをたっぷり含んだ潮風が吹き込むのです。
そんな環境で、農業を営んでいた村上さんは、
数年前、とあることに気が付きます。
夏場に盛んなシラス漁の網が、冬場には眠っていたのです。
有機栽培の野菜にシラス漁用の網、そして太陽と潮風。
これらが組み合わさり、村上さんが思い付いたのが、
「乾物」でした。
それまで天歩塾では、野菜は生鮮として出荷していましたが、
不ぞろいなものや傷物の野菜は、自家消費か廃棄するしかありませんでした。
そんな野菜を加工して、乾物にすれば、
価値を見いだせるのではないか。
こうして生まれたのが、「切り干し大根」。
大根は、沿岸で天日干しすることによって、
太陽の光とミネラルをたっぷり含んだ潮風にさらされ、
長期保存を可能にしました。
乾きかけの切り干し大根を一口いただくと、これがとても甘い!
さらに、これまで畑の堆肥にされていた大根の葉も、
茹でてカットし、乾物にすることで、商品化に着手。
このように、これまで価値を見いだされずに捨てられてきた野菜たちが、
乾物となることで、日の目を浴び始めているのです。
「乾物って、いわば昔ながらのレトルト食品ですよね」
前回ご案内いただいた、無茶々園で企画を務める高瀬英明さんもそう話す通り、
これなら野菜を買っても余らせがちな、一人暮らしの人たちにとっても、
必要な分だけ湯がいたり、スープや麺に入れたりして食せるのがいいですよね。
「田舎が成り立っていくためには、仲間が必要です。
そのためには雇用を増やさないと」
村上さんがそう話すように、このアイデアによって、
大型設備を導入することなく、産地の経済にも活力を与え始めています。
現に、天歩塾の加工場には、
各地から移住してきた若者たちがイキイキと働く姿がありました。
ちなみにパッケージのデザインは、地元のデザイナー井上真季さんが担当。
なんとこの方、以前高知で取材させていただいた、
地デザイナーの迫田司さんのお弟子さんでした。
もともと地元にある資源を見直し、
いわば昔からある保存の技法から生まれた、無茶々園・天歩塾の乾物。
町を活性化するためのアイデアは、
意外と身近に眠っているのかもしれません。
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