MUJIキャラバン

日常使いできる漆器

2012年06月01日

古くから日本の食卓で用いられてきた漆器。

欧米では、磁器のことを「チャイナ」、漆器のことを「ジャパン」と呼ぶほど、
日本を代表するものとして知られています。

現在でこそ、漆器のように見える合成樹脂の安価の椀が増えていますが、
北海道では約9000年前の漆器が見つかるなど、その歴史は古く、
陶磁器が広く使われる以前は、日本人にとって最も身近な食器だったようです。

陶器・磁器と、その作りについて学んできた私たちですが、
この漆器は、一体どのように作られているのでしょうか?

福井県鯖江市に、斬新な漆職人がいると聞きつけ、お邪魔しました。

山間ののどかな環境に、漆職人、山岸厚夫さんの
『錦壽(きんじゅ)』と呼ばれる工房はありました。

ここから、東京はもとより日本全国、はたまた海外へ展開される漆器が、
次々と生み出されているんです。

到着するや否や、山岸さんは、

「漆の木って、見たことないやろ?」

と、裏庭にある10mほどの漆の木を見せてくれました。

この木に傷を付けると、木自体から回復作用で出てくる樹液、

これが「漆」の原料なんです。

この生漆に触れたり、近くを通ったりするだけでも、
アレルギー性皮膚炎を起こしかぶれてしまうんだそう。

この樹液を精製したものを、栃木でお目にかかったような「木地」に、

何層も塗り込んでいったものが漆器となるんです。

ただ、漆器というと「傷が付きやすい」、「すぐ剥げてしまう」
などのイメージがありませんか?

ゆえに、現在では漆器は、どちらかというと記念事のお祝い時や、
お客様をもてなす際に使用されるケースが多いです。

そこに疑問符を持たれた山岸さんは、

「だったら、最初っから傷の付いている漆器を作ればいいじゃないか」

と、あえて傷のようなデザインを見せ、
新品のジーンズを洗ったようにすりへった雰囲気に仕上げました。

この漆器は使えば使うほど味が出てきます。
これが当時、これまでの漆器の概念を覆したものとして、
山岸さんは一躍、注目を集めることになります。

「じゃんじゃん使えるものじゃないと、使いにくいやろ。
ワシのテーマは、"日常使いできる漆器"やから」

そう語る山岸さんも、初め父親から家業を継ぐ時は嫌々だったそうです。

ただ、やるからには、斜陽産業の伝統工芸としてではなく、
きちんと人に使ってもらえる伝統工芸として確立したいという想いを抱き、
徹底して顧客のニーズを研究すべく、全国のデパートの漆器売り場などに足を運んだそう。

今でも、国内外問わずに積極的に個展などを展開し、
直接、顧客の反応を見ることで、その感性を研ぎ澄ませています。

結果、生まれたデザインがこれら。

「漆って、別に赤と黒だけじゃないんや。
いろんな色が使えるんだから、こんな現代っぽい柄があっていいやろ」

こうして生み出されていく漆のデザインの用途は、
今や食器だけにとどまらず、店舗の壁などにも利用され始めているそうです。

このような展開も、すべては基本があってこそということで、
山岸さんは山形県の漆研究家の元まで、漆の基本を学びに行っていたんだとか。

今では漆の基礎知識、顧客の視点、そして技術、アートまで、
漆についてはどんな観点からでも話すことができる、山岸さん。
本当の意味での職人とは、こういう方のことをいうのかもしれません。

そんな山岸さんの作る漆器は、無印良品でもお買い求めいただけます。

河和田塗り飯椀 朱・約13cm×高さ6cm 1200円

  • プロフィール MUJIキャラバン隊
    長谷川浩史・梨紗
    世界一周の旅をした経験をもつ夫婦が、今度は日本一周の旅に出ました。
    www.cool-boom.jp
    kurashisa.co.jp

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