MUJIキャラバン

300年続くお酢

2014年04月09日

和食の味付けの基本とされる調味料「さしすせそ」。

そのうち、「せ」醤油と「そ」味噌は日本独自のものですが、
「さ」砂糖と「し」塩、そして、「す」酢は世界中に存在するものです。

なかでも酢は、世界各地で飲まれるお酒との関わりが強いことをご存じでしょうか。

「酢酸菌(さくさんきん)は、アルコールを餌に酢をつくるんです。
ですから、世界各地のお酢は、その地のアルコール文化との関係が深いんですよ」

そう教えてくださったのは、福岡県大川市の老舗蔵、
庄分酢の14代目、高橋一精さんです。

思えば、
ワインの産地フランスやイタリア、スペイン、ポルトガルでは"ワインビネガー"、
ビールの本場、イギリスやドイツでは"モルトビネガー"、
アメリカでは"シードルビネガー"と、
各地のお酒文化によってお酢の種類も様々。

フランス語で酢を意味する「vinaigre」とは、
「vin=ワイン」と「aigre=すっぱい」を合わせたもので、
「お酒をすっぱくしたもの」という意味でした。

当然、日本酒文化の日本では「米酢」が造られており、
酢蔵には、かつて酒蔵だったところも多く存在します。

庄分酢もその一つ。

筑後川の水に恵まれ、豊かな大地の米どころの筑後で、
庄分酢が産声を上げたのは、1711年のこと。

造り酒屋の4代目、清右衛門がお酢造りを始めて以来、
300余年にわたって、お酢を造り続けてきているのです。

「高橋家で代々、引き継がれてきている家伝書がありましてね。
今も"玄米くろ酢"は、この製法にのっとって造っています」

高橋さんがそう話すのは、昔から使われ続けている
大甕(カメ)仕込みのくろ酢のこと。

以前、鹿児島県福山町で見た壺畑の光景を思い出しましたが、
それよりも、一つひとつのカメのサイズが大きいことが特徴です。

「大きい方が、中の温度が一定に保たれやすいんです。
温度変化に対応するための先人たちの工夫でしょう」

カメが半分、地中に埋まっているのも、
中の温度を一定に保つための知恵でした。

くろ酢の醸造に用いるのは、水と麹菌と、
熊本県から仕入れた有機農法の玄米のみ。

カメのなかでゆっくりと、麹菌によって米が糖化され、
その糖分をエサに酵母がアルコール発酵を促し、
カメに生息する酢酸菌が、アルコールを酢に変えていきます。

市場に多く流通する酢は、速醸法と呼ばれる製法で、
醸造用アルコールを原料に24時間ほどで造られていますが、
この静置発酵法だと3カ月ほど歳月を要します。

「静置発酵させているあいだ、黙っているわけではありません。
菌膜の状態はカメによって異なるので、一つひとつ見守りながら手入れをします。
子育てに似ていますよね」

酢職人は語ります。

その後、さらに長い熟成期間を経て、ようやくくろ酢として完成するのです。

効率を追い求めては、決して造られない酢。
その分、酢に深いコクと旨みがもたらされます。

「守るべきは守りながらも、
現代のくらしのなかで取り入れやすい酢も提案していきたい」

高橋さんがそう語る通り、庄分酢では米酢以外にも、
様々な果実から造られた酢も手掛けています。

ドレッシングやドリンク、食事の隠し味などにも重宝するりんご酢も、
有機栽培で作られたりんごのみを用いて造られていました。

※Found MUJIを扱う一部の店舗でもお買い求めいただけます

さらに、酢の可能性を広げていきたいと、
蔵の2階を改装して、レストランもオープン。

酢を使った料理やスイーツを提供し、
酢のあるくらしを提案していっています。

「高橋家では代々、長男の名前には"清"か"精"という漢字が使われているんです。
常に、精進しながら、清らかな酢を造り続けたいと思っています」

300余年にわたり、"庄分さん"の名で親しまれ続ける酢の背景には、
頑なに守りながらも、攻め続ける蔵の姿勢がありました。

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  • プロフィール MUJIキャラバン隊
    長谷川浩史・梨紗
    世界一周の旅をした経験をもつ夫婦が、今度は日本一周の旅に出ました。
    www.cool-boom.jp
    kurashisa.co.jp

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