世界にひとつの線香花火
線香花火で、誰が一番長持ちできるか。
そんな夏の一コマを思い出に持つ方も多いかもしれません。
手持ちで楽しむ玩具花火のなかでも、
線香花火は昔も今も変わらぬ魅力で私たちを楽しませてくれます。
ただ、打ち上げ花火は、現在も各地で催される花火大会で用いられますが、
玩具花火は、少子化や町中での火気制限なども相まって需要が低迷。
さらに、安価な輸入品の流入によって、
現在、線香花火を手掛ける花火製造会社は全国で3社を残すのみです。
そのうちの一社が、福岡県みやま市にある
筒井時正玩具花火製造所。
工場を訪ねると、3代目の筒井良太さんが笑顔で迎えてくださいました。
「かつては仏壇の香炉に、線香のように立てて楽しんだことから、
"線香花火"と呼ばれるようになったんですよ」
香炉に立てる?
私たちにとって身近な線香花火は、
柔らかい紙で包まれ、下に垂らして楽しむものでした。
これは「長手牡丹(ながてぼたん)」と呼ばれる形状で、
関東地方を中心に広がったもの。
一方の、関西地方での線香花火といえば、
この「スボ手牡丹(すぼてぼたん)」が一般的だったそうです。
持ち手に紙ではなく、少し丈夫なワラが用いられているため、
香炉に立てることもできるのです。
この違いは、米作りが盛んだった関西地方では、
豊富にあったワラの先に火薬を付けて楽しんだのに対し、
米作りが少なかった関東地方では、
ワラの代用品として和紙で火薬を包んだためといわれています。
「現在では、中国産の輸入品が"長手牡丹"のため、
こちらの形状に見慣れている人も多いかもしれませんね」
良太さんがそう話す通り、関西地方特有の「スボ手牡丹」を作るのは、
全国でもここ筒井時正玩具花火製造所のみだそう。
実際に遊ぶ際には、先を少し上に向けて楽しむ方が、
玉が落ちにくく、火花が大きくなるんだとか。
関東地方出身の私たちにとって、
なんだか新鮮な線香花火の楽しみ方でした。
「主人は何度も研究を重ねて、今の火薬の配合に行き着きました。
それでもちょっとした火薬の量や紙の縒(よ)り方、
空気の状況によっても花火の咲き方が異なるんですよ」
そう話すのは、奥様の今日子さんです。
子育てにいち段落ついた今日子さんは、4~5年前から家業を手伝うように。
目の前で線香花火を作ってくださいました。
一つひとつのすべてが手作業です。
紙の上に少量の火薬を盛り、少しずつ縒っていくのです。
紙が尻すぼみの形で、半分しか染めていないのは、
必要最低限の原料を大切に扱う工夫でした。
1本の線香花火に用いられる火薬の量はわずか0.08グラム。
100分の1グラムの増減で、燃え方は大きく変わるというから、
日本人の繊細さを象徴しているかのようですね。
さらに、驚かされたのが、
「線香花火の一生には、人の人生になぞらえた
4つの段階があるんですよ」
と、今日子さん。
なんと、線香花火の燃え方には
段階ごとに名前が付けられているのです。
「蕾」とは、まるで命でも宿ったかのように、
火の玉が大きく育つ段階のこと。
やがて、迷いながらも一歩ずつ進む青春時代のように、
パチッパチッと力強い火花が散りだす「牡丹」を経て、
勢いを増し火花を咲かせる「松葉」を眺めていると、
結婚・出産・子供の成長といった、幸せなシーンを想起します。
そして、晩年の静かな余生を表すような「散り菊」。
最期は、おだやかに火花が散りゆき、やがて光を失うのです。
実にはかない線香花火の一生。
こうした花火に情緒を感じるのも、日本人らしさなのかもしれません。
「日本の花火の良さを伝えていきたい。
他では真似できない、オリジナルの花火を作れないものか」
そう考えた筒井夫妻は、徹底的に地域にある素材を見つめ直しました。
そこで見つけたのが、地元福岡産の八女和紙。
これを草木染めで色づけし、可愛らしいお花の形に仕上げると、
遊ぶだけでなく、眺めたり、贈ったりできる
唯一無二の線香花火が出来上がりました!
また、現在、工場の近くに、完成すれば日本初となる、
室内で花火が楽しめる建屋も建築中。
地元、筑後産の食を楽しみながら、
自身で線香花火を縒って楽しめるワークショップなども開催予定だそう。
「くじけそうになることもたくさんありましたけど、
足元を見つめ直したことで、歯車が回り始めました。
原料がないと始まらないし、買ってもらえる人がいないと始まらない。
人とのつながりを大切に、何よりも"内助の功"ですかね」
製造を中心に行う良太さんと、営業と販売を中心に行う今日子さん。
意見のぶつかり合いがありながらも、二人あきらめずに進んできたからこそ、
今の筒井時正花火製造所の線香花火がありました。
繊細でやさしい火花が咲き誇るのも、
夫婦の汗と涙が詰まっているからに違いありません。
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