MUJIキャラバン

東濃のtonono

2014年07月02日

岐阜県南東部に広がる東濃(とうのう)地方。

裏木曽に当たるこの地方は、激しい寒暖の差に痩せた土地が特徴です。

同じ県内でも、飛騨地方のケヤキやトチといった広葉樹に対し、
東濃地方に育つのは、ヒノキやスギといった針葉樹。

この地で長い年月をかけ成長する木は、年輪幅が少ない良質な木材へと育っていきます。
伊勢神宮の遷宮用のご神木も、この地から奉納されるほど。

こうした木材は、主に建材として用いられ、
端材は曲げ輪の技術で、お弁当箱などが作られてきました。

「なかでも良質の材は、"トロ"なんて呼んだりするんですよ。
ここのヒノキは粘り気もあるから、曲げ輪ができたわけです」

そう話すのは、この地で60年近く木工業を営む、
内木木工所の内木盛良(ないきもりろう)さん。

曲げ輪の職人だった父親に対し、別の分野を極めようと
内木さんが追求したのが、塗装の道でした。

今日では、木材塗装の分野において業界を牽引しています。

実際に、内木さんが手掛けたプロ仕様の卓球ラケットを拝見すると、
そこに刻まれた年輪は、確かに"トロ"のようです。

そんな良質な材がある東濃地方においても、
木工業を取り巻く厳しい環境は変わりありません。

住宅用建材の多様化に加え、安価な外材の流入…。

森は適正に間伐、管理されなければ、
こうした良質な材も育たなくなってしまいます。

「それでも木工の産地、岐阜には仕事があり、危機感が薄いんです。
私も、塗装だけで食べていくこともできました。
ただ、産地の緩やかな衰退を、見て見ぬふりはできなかったんです」

そう話す内木さんは、もともと好きだった加工の技術で、
様々な木工製品を手掛けていきました。

そんななか、NCルーターでカットしたウェーブ状の素材。

それをつなぎ合わせた板を、数カ月放置しておいても、
まったく反っていないことに気が付きます。

内木さんは、県や大学に試験を依頼。

すると、ウェーブ状にカットしたことによって、
木の繊維が短く絡み合い、反りが防がれることが判明したのです。

「普通、無垢の木は板状にすると、数カ月放置していたら、
多少なりとも反ってしまうんですよね。
この技術を用いれば、様々なものに展開できると思いました」

内木さんは、デザイナーに協力を仰ぎながら、
矢継ぎ早に様々な商品を仕掛けていきます。

それまで柔らかく、反りやすいため、
家具には向きにくいといわれていたスギ・ヒノキでしたが、
この技術を用いれば、このように机やテーブルにも。

スギの柔らかい触り心地と吸水性を生かしたバスマットは、
反りにくいからこそ生まれたプロダクトです。

内木さんはこのブランドを、「tonono(とのの)」=東濃の、
と名付けました。

「グローバル社会においては、何か作っても、
すぐに外材で真似されてしまいます。
これからは東濃でしか作れないものを追求しなくてはいけません。
木工の産地の岐阜で、ここでしかできない技術を駆使していきたい」

スタイリッシュなデザインで、
針葉樹の欠点を解消した「tonono」。

ウェーブ状の材をつなぎ合わせるのは、
高度な技術が必要とされるといいます。

この技術によって、東濃の木材が利用され、
山を守り育てていく循環を生み出していく。

内木さんの探求心は今、確実に実を結びつつあります。

  • プロフィール MUJIキャラバン隊
    長谷川浩史・梨紗
    世界一周の旅をした経験をもつ夫婦が、今度は日本一周の旅に出ました。
    www.cool-boom.jp
    kurashisa.co.jp

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