温泉とこけしと、時代の流れ
「い」伊香保温泉、日本の名湯。
「く」草津よいとこ、薬の温泉。
「よ」世のちり洗う、四万温泉。
「上毛かるた」の中でも、ひと際多く描かれている群馬の温泉。
確かに群馬には、一度は聞いたことのある温泉街が多いですよね。
四万温泉には、あの『千と千尋の神隠し』のモデルになった温泉宿もありました。
火山の多い日本では、昔からたくさんの温泉が湧き出ており、
温泉宿は人々に愛されてきました。
農業が国民の主な産業だった昔の日本では、
湯治といって、人々がコミュニケーションを楽しみながら、
農作業の疲れを癒やす場として、温泉は1年を通して親しまれていたようです。
1月末の一番寒い時期の「寒湯治」、
田植えの後の「泥落とし湯治」、
8月の一番暑い時期の「土用の丑湯治」など。
今でも、「疲れが溜まってるから、温泉でも行ってゆっくりしようか」
なんて話がよくありますが、
温泉の使われ方は、今も昔もさほど変わっていないのかもしれませんね。
そんな温泉街には、「温泉まんじゅう」をはじめとしたお土産品も数多いですが、
そのひとつとして、昔から慣れ親しまれているものが「こけし」です。
以前、栃木で出会ったような木地師が、
東北地方の温泉街において、湯治客へのお土産品として作ったのが始まりで、
今では「伝統こけし」と呼ばれ、東北地方の名産品として知られています。
名だたる温泉街を有する群馬でも同様に、こけしは作られているのですが、
こちらは「近代こけし」と呼ばれ、作家の自由な発想のもとに制作されています。
その工房のひとつ、「卯三郎こけし」を訪れると、
キャラクターものから、
つまようじさしや七味唐辛子入れ、
なんと、へその緒入れまで作られていました。
へその緒と、生まれてきた子供への手紙を、
タイムカプセルのように、こけしの中に入れておけることから、
大人気の商品なんだとか。
名前や日付なども書いてもらえるので、
友人への出産祝いのプレゼントとしても、きっと喜ばれますよね!
昔は、近代こけしといっても、玩具や観賞用が多かったようですが、
観光客の増減が直接、売り上げに響いてくるため、
出荷できる商品をいろいろと考案し、
今では、都心の雑貨屋にも置かれるようになったようです。
ただ、その製法は今でも、ひとつずつ手づくり。
伝統的な製法に則りながらも、
時代のニーズを汲んだ商品を考案していく姿勢は、
伝統産業におけるものづくりの、これからの時代へのヒントではないでしょうか?
卯三郎こけしのスタッフの方々が、生き生き働いているように感じたのも、
時代のニーズに応えている手応えを味わっているからかもしれません。