尾道帆布
「"すごいね〜すごいね~これ何かに使えないかしら!"
最初はね、そこから始まったんですよ」
少女のようにキラキラと輝く瞳で、
そう話してくださったのは
「工房尾道帆布(はんぷ)」代表の木織雅子さんです。
もともと飲食店を経営されていた木織さんは、
中小企業家同友会 尾道支部女性部の仲間と数名で
尾道に残る、向島の帆布工場見学に出掛けました。
「尾道には食べ物はたくさんあるけれど、
持って帰れるお土産物がないので、何か作れないかねぇ
」
ちょうどそう考えていた1998年のことでした。
織機の大音量が響き渡る工場で、
少しずつ織り上がっていく木綿の布を前に心が躍ったといいます。
尾道はかつて北前船の寄港地だった関係から、
帆布が盛んに織られていました。
帆布はもともと文字通り、帆船の布として生まれましたが、
厚手で丈夫、熱に強く通気性がいいという特徴から、
時代ともにテント、シート、作業服などにも使用されるようになり、
70年前には尾道市内だけでも帆布工場が10社ほどあったそう。
しかし、戦後になると化学繊維の台頭により、
帆布のニーズは減っていき、
今では工場も市内で1ヵ所になってしまいました。
木織さんは、縫製経験のある田口さんを誘って、
1999年に小さなポーチづくりから始めました。
「初めは布が厚くて家庭用ミシンでは針が通らなくて
とても苦労しました。
工場に相談して業務用ミシンを1台もらい、
クリーニング店の片隅でスタートしたんです」
と田口さんは当時を振り返ります。
今では作り手の数も増え、
トートバッグを中心に、小物・雑貨を広く展開しています。
生地がとてもしっかりしていて、使うほどになじんでいく、
シンプルですが、どこか優しい味わいです。
ちなみに、工房尾道帆布にはデザイナーはいません。
このタグのロゴも北前船のシルエットをモデルに
自分たちで考えたんだそうです。
現在、お店と併設して工房を構えており、
使う人の声をヒントにものづくりをされています。
「お客様のワガママをできるだけ取り入れたいと思って。
右利きと左利きの人だと、ファスナーの向きや
使いやすいポケットの位置も違うんですね。
お客様からいつもたくさん教わっています」
近年、尾道にはしまなみ街道のサイクリングを目的に
来られるお客様も増えているとのこと。
そんなライダーさんたちのための、
自転車用グッズもいろいろ開発されていました。
また、木織さんたちは地元とのつながりを大切にしています。
学生と共同で商店街の空き店舗を利用した
「尾道帆布展」を開催したり、
帆布を使ったワークショップを行ったり。
「駆け出しの頃、お金も場所もなくて困っていた時に
手を貸してくれたのが地元の人たちでした。
それを恩返ししていきたいと思っています」
地元の小学校でも、月1回出前授業を行い、
子供たちに帆布を知ってもらう取り組みもされています。
最後に今後の抱負を伺いました。
「今、お店の前でも帆布の原料である、綿(わた)を育てているんですが、
夢はしまなみ街道沿いを綿で埋め尽くすこと!」
帆布工場で「なんだか素敵!」と感じた感性を元に
次々と勢力的に取り組まれてきた木織さんたち。
実は、14年前、木織さんたちが工場見学をした時に、
別の団体も同じく見学に行っていました。
しかし、彼らは工場の社長の話を聞いて、
「繊維産業はもう厳しい」という判断をしていたんだそう。
同じ現場を見ても、こうして未来につなげられるかどうかは、
そこに可能性を感じられるか、
ワクワクできるかなんだなということを知らされました。
木織さんたちの地域に根差した取り組みは、
東南アジア諸国からも注目を浴び、
来月には実際に海外から視察団が来るそうです。